マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
金沢商・室木太陽の肩に驚いた。
なぜこれだけの捕手が全くの無名?
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySports Graphic Number
posted2020/08/19 07:00
世間的な知名度と実力が比例するとは限らない。金沢商・室木太陽はその好例の1人だろう。
驚きの二塁送球タイムに、4番の仕事も。
と思っていたら、遊学館が走ってきたから驚いた。
1点先制された3回2死一塁、ヒットで出塁したリードオフマン・寺田敦三塁手が3球目にスタートをきった。
完璧なスタートに見えた。やったか! と思った次の瞬間、なんと二塁ベースの2mほど手前でタッチアウトだ。50mを5秒台とも言われる快足・寺田敦が、スライディングもさせてもらえなかった。
「あのキャッチャー、いいですよね!」
近くで観戦していたあるスカウトの方が、びっくりしたように声をかけてきた。
「でも、ぜんぜん話題にもなってませんよね。なんでですか? この夏、僕が見た中で、守りならいちばんじゃないかな。今の二塁送球タイムなんか、1.79(秒)出てますよ!」
プロでも一流のタイムのドンピシャストライク送球で快足ランナーを刺しておいて、室木太陽、その勢いで次の4回の攻撃では、高めに抜けたスライダーをレフトスタンドにライナー性の打球で放り込んで「中押し」の追加点。「4番」の仕事も全うしてみせた。
「去年の夏、新チームの練習でこのポイントで打てば強い打球になって飛距離も出る! って感覚をつかみかけたんですけど、試合でなかなか結果が出なくて……。でも、ヒット欲しさの当てにいくバッティングだけはしたくなかったので、最後の夏だし、思いきりいきました!」
溢れる思いを、きちんと言葉にしている。
肩だけでなく反射神経も一流。
金沢商が2点をリードした5回、エラーと四球で作った無死一、二塁のピンチ。
左打者が打ち損じた低いフライが、バックネット三塁側に飛ぶ。
この時の、捕手・室木太陽の「反射」がすばらしかった。
上がった瞬間に、ポーンと一歩スタートをきって、バックネット前でスッと軽くブレーキをかけるようにしてボールを吸収。ヘタしたら「逆転」まであったピンチの芽を、見事に摘み取ってみせた。
ここが、この試合の正念場。何がなんでも! という気迫が、一瞬の動きにあふれる。