野ボール横丁BACK NUMBER
緊張はないが、未知の自分とも……。
平田・古川投手と「静かな甲子園」。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2020/08/11 18:15
創成館を相手に、平田の古川雅也投手は見事な投球を見せた。もし歓声の力があったら……と考えるのは良くないことだろうか。
甲子園初戦でここまでの疲労は珍しい。
試合後、取材エリアで待機していると、チームメイトやトレーナーに何度となく「大丈夫か?」と声をかけられた。そのたびに「大丈夫です」と返したが、不自然に力の入った返事が疲労の深さを物語っていた。
甲子園の初戦で、ここまで疲労する投手を見るのは珍しい。例年であれば、夏、勝ち上がってきた投手が投げる。なので蓄積した疲労はあるだろうが、鍛えられている部分もあるし、何より暑さに慣れている。
しかし、平田は島根の独自大会の準決勝で敗れたため、古川は、2試合しか経験していなかった。
「暑さになれていなかった。島根に比べて、甲子園は日差しが強かったですね」
甲子園の大声援が引き出していたもの。
独自大会から成長した点を問われると、正直に、こう吐いた。
「いやあ、あんまり……」
もちろん、コロナの影響で練習不足だった面もあるのだろう。
そして、もうひとつ――。
古川は無観客の甲子園の印象をこう語る。
「緊張するのかなと思いましたけど、あまり緊張感もなく投げられました」
大声援は、確かに緊張を促すこともある。しかしその一方で、エネルギーを引き出してくれることもある。
例年より静かな甲子園は、今の自分を知ることはできても、未知の自分と出会うことは難しいのかもしれない。