野球善哉BACK NUMBER
3年生の起用か、2年生の経験か。
天理と広島新庄の別れた判断。
posted2020/08/11 16:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
天理らしい言葉だった。
「県の独自大会はスタンドで応援してサポート役でした。2年生は3年生のためにやろうと言い合ってきて、今大会は3年生が勝てるようにと思ってやってきました」
昨秋の近畿大会から神宮大会にかけて3試合連続本塁打に、トレードマークのおしゃれなメガネも相まって一躍注目を浴びた天理の背番号「15」瀬千皓(せ・ちひろ)。しかし彼は、甲子園交流試合では出番を迎えることなくゲームセットのサイレンを聞いた。
9回に登板した193センチの2年生右腕・達孝太も、口をそろえるように「3年生」への想いを語った。
「下級生は3年生のために何ができるかを考えて欲しい」
天理高初の全国制覇の時に主将を務めた中村良二監督は常日頃そう話している。だからこそ、2年生の逸材2人は謙虚に語ったのだろう。
3年生を起用するか、実力重視か。
各地で開催されている独自大会を含めて、今年の高校野球シーンには「3年生のための大会」という空気が漂っている。最後の夏を奪われ、甲子園を目指すことや練習すらままならなかった現3年生への強い想いを持つ人は多い。
しかし、長い自粛期間を強いられて練習や試合から離れていたのは1、2年生も同じだ。3年生の出場機会を増やすか、2年生の有望な選手に試合の経験を積ませるかは、この夏全国の監督が頭を悩ませたことの1つだろう。
「3年生が頑張ってくれましたけど、2年生でもしっかり頑張ってくれている選手もいる。ひとつになって戦うには、2年生の力も必要だったと思います。そういう形でやっていくという話はしてきました」
そう語ったのはこの試合で天理を破った広島新庄の監督・宇多村聡だった。
1番打者として3度出塁。3打数3安打2打点の活躍を見せた大可尭明(おおか・たかあき)や遊撃手として軽快な守備を見せた瀬尾秀太、救援投手として、3イニングを無失点に抑えた秋山恭平ら2年生を積極的に起用。彼らの力がなければ試合展開は全く変わっていたであろう活躍を見せた。