野ボール横丁BACK NUMBER
緊張はないが、未知の自分とも……。
平田・古川投手と「静かな甲子園」。
posted2020/08/11 18:15
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
創成館の左打者は、何度も何度も、飛び退くエビのように体をくの字に曲げた。
「球速がないので、インコースを突かないとどうしようもない」
平田の「四番、エース」である古川雅也は、そう言った。
21世紀枠の平田と、甲子園常連校である創成館の対戦は、下馬評では、創成館が圧倒的有利と見られていた。
しかし、中盤までは、古川が評判通りの好投を見せた。ストレートは130kmに届くかどうか。それでも果敢に相手の懐を突き、バットの芯になかなか当てさせなかった。
5回を終えて、0-1。古川の投球数も60球とまずまず。五分五分の戦いに思えたが、古川はこう振り返る。
「6回あたりから、しんどいなと思ってました」
7回裏は初めて長打を許し、1失点。0-2とリードを広げられる。8回裏に入ると、疲労感は顕著になった。何人もの走者を許したため、何度となく三塁や本塁の裏へベースカバーに走らなければならなかったのだが、その後、マウンドへ戻る足取りが急に重くなった。見るに見かねた主審が注意するシーンもあった。
「もう走れる気がしなかったので」
古川はこの回、犠牲フライとタイムリーで2失点し、0-4とされる。さらにヒットを打たれ、ツーアウト一、二塁となったところで交代を告げられた。三塁手の高橋大樹と入れ替わる形での交代となったが、悔しさよりも、ホッとしたように見えた。
「力が足りなかった。でも、やり切ったという気持ちの方が強かったです」
交代直後、三塁線へのゴロを倒れ込むようにして何とか抑えた。
9回表の平田は、先頭の2番、続く3番と、代打攻勢に出る。しかし、4番の平田はそのまま打席に入り、8球粘った末に、レフト前ヒットで出塁。そこでようやく代走を送られ、ベンチに退いた。そのときも悔しさはなかったという。
「もう走れる気がしなかったので……」