野ボール横丁BACK NUMBER
3ボールで強振の「出たとこ勝負」。
佐々木誠と鹿児島城西の異色な潔さ。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2020/08/12 19:30
高校の指導者としては初の甲子園となった佐々木誠監督。鹿児島城西での思い切った野球スタイルは、今後も注目を浴びそうだ。
ノックで投手に「瞑想でもしてこい」。
鹿児島城西は練習前のシートノックのときから、異色だった。
ノック時間がスタートし、選手がグランドに散る。いつもの景色と何かが違う――。マウンドに2人の投手が立っていたのだ。
通常、ノックの時は、ピッチャーはブルペンで投球練習をしているものだ。佐々木がその意図を説明する。
「今年は甲子園練習もなかったので、マウンドからどんな風に見えるかもわからないじゃないですか。だからマウンドへ行って、しばらく瞑想でもしてこい、って」
「出たとこ勝負」のノーデータ野球。
しかし、もっとも驚かされたのは、時代と逆行するような「ノーデータ野球」だったことだ。相手チームの印象を聞かれると、佐々木はこう答えた。
「まったくデータを取っていなかったので、どんなピッチャーかも、どんなチームかも、全然わからなかった。出たとこ勝負でした。鹿児島の代替大会もそうでした。普段の大会はちゃんと調べるんですけどね。でも、今年は(コロナの影響で)練習もちゃんとできていなかったので、データを取ることに力を注ぐくらいなら、そのぶんみんなでちゃんと練習をしようということにしたんです」
就任からわずか2年半で甲子園に立った。阪神時代、慣れ親しんだ球場でもある。
「アマチュアになって戻ってくると新鮮ですね。球場に一歩入った時にはゾクゾクっとしました」
この試合は1-3で惜しくも敗れた。しかし、佐々木の高校野球はまだ始まったばかりだ。これからどんな野球を見せてくれるのか。それを考えると、こちらも「ゾクゾク」してくる。