マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ドラフト候補の149kmを悠々運ぶ。
岐阜一高の2年生、阪口樂は本物だ。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySports Graphic Number
posted2020/08/03 11:30
この大物感、細身に見えて94kgのパワーがぎっしり詰まっている。阪口樂、1年後はどれほどの選手に成長しているのだろうか。
ヘトヘトでも、加藤翼からもう一発。
わずかにボールの上下を打ち損じたように見えたライトライナーの後に、申告敬遠をはさんで迎えた6打席目だった。
お目当ての帝京大可児・加藤翼投手がリリーフのマウンドに上がっていた。
150キロ右腕・加藤翼を打ち崩す準備はできているように見えたが、さすがに湿度80%、気温32℃、炎暑の第6打席だ。
6回からは自分でマウンドにも上がっていた阪口樂……もうヘトヘトだろうと思ったら、高校生の「底力」はすごいったら、ありゃしない。
快腕・加藤翼の高め速球「149キロ」を叩いた打球がライト98mのフェンスを軽く越えていったから、ネット裏はみんなでもう一度驚いた。
加藤の速球だって本物だった。しかし……。
やられた加藤翼だって、確かに評判通りの「快腕」だった。
登板しないだろうと踏んで、ブルペンで投げ始めた姿を近くまで見に行った。
鈴木孝政さんだ、と思った。
1970年代から80年代、中日のリリーフ投手として、150キロに及ぶスピードによる真っ向勝負で17年投げ続け、124勝をあげ、96セーブをマークした快速球投手だ。
今の投手なら、誰だろう。
猛烈な腕の振りの反動で、フィニッシュが跳ね上がるようなフォームは、DeNAの守護神・山崎康晃だろうか。オリックスの若きエース・山本由伸のエネルギッシュな投げっぷりも重なってくる。
踏み込んだ左足をピンと伸ばすように「つっかい棒」にして、パン!と勢いよく上体をかぶせて、猛烈に腕を叩く。
捕手のミットを高らかに鳴らす、当たりの強い快速球だ。
こういう投げ方の投手は、スピードは出るけどゾーンが高くなりがち…特に立ち上がりが浮きやすい。
そう考えていた通りのボールを、一撃で阪口樂に放り込まれてしまった。