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札幌・菅野孝憲の500試合とGK論。
ソンユン移籍、カズとミシャに学び。
text by
斉藤宏則Hironori Saitoh
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/07/25 11:40
横浜FC、レイソル、サンガ、そしてコンサドーレ。菅野孝憲が各クラブのゴールマウスを長く守り続けられたのも、その哲学あってこそだろう。
正GKク・ソンユンの移籍。
そしてもうひとつ。
中断期間にチームメイトである韓国代表GKク・ソンユンが母国の大邱FCに移籍した。京都在籍時まで菅野が正GKとして生きてきたことは前述したが、札幌に移籍加入した2018年からの2シーズンのリーグ戦出場はわずかに「1」。身長195cmの超大型GKク・ソンユンがいたからだ。菅野は正GKから一転、ベンチスタートの日々が続いていた。
そうしたなかでも「自分が控えキーパーだと思ったことはない」と発し続けていたが、「ソンユンの存在がチームにとって絶対的なものであるということも間違いない」と認めていた。そのク・ソンユンが移籍をすることになったのだが、ここでも強い覚悟が芽生えている。
「札幌のゴールは誰か1人ではなくキーパー全員で守っている」
菅野は日々、こう話していた。
「言うまでもなくソンユンは素晴らしいキーパーで、これからもさらにいいキーパーになると思う。阿波加(俊太)も高い技術力を持っている。僕は彼らを心からリスペクトしているし、盗めるものはなんでも盗んでいる。同じように彼らも僕のことをリスペクトしてくれていると思う。そして今年はカウィンが加わってくれた。試合に出られるのは1人だけど、札幌のゴールはキーパー全員で力を合わせて守ってきた。これからもそれは変わらない」
練習ではライバル。試合では?
昨季までを思い返すと、勝利後にク・ソンユンと菅野が満面の笑みで抱き合うシーンが印象的であり、美しかった。たった1つの枠を争う者同士が、ライバルの頑張りを心から称える。文字にするのは簡単だが、現実としてはそう簡単にできることではないはずだ。
それでも菅野はこう強調する。
「やはり試合は別でしょう。毎日の練習ではライバルだけど、試合のときはスタメンに選ばれた選手が気持ちよくプレーできるようにするのもライバルの役目なはず。試合に勝ったら一緒に喜んで、負けたら励ます。そして翌日からはまたライバルに戻る。キーパーってそういうポジションだと思うから」
若手の頃には残念ながら反対の接し方をされたことがある。
「それは絶対に違うと思っていたし、将来の自分は絶対にそうであってはいけないと思い続けてきた」
ライバルだったク・ソンユンへの想いはこうも口にする。
「繰り返しになりますけど、札幌のゴールはキーパー全員で守ってきた。ソンユンが抜けたからといって守備力が落ちてしまってはいけないし、それだと一緒に守ってきたソンユンにも申し訳ない。ソンユンが抜けても、またみんなで守り抜く。そういう覚悟もいまは持っています」