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札幌・菅野孝憲の500試合とGK論。
ソンユン移籍、カズとミシャに学び。
posted2020/07/25 11:40
text by
斉藤宏則Hironori Saitoh
photograph by
J.LEAGUE
今季のJ1再開日となった7月4日。ニッパツ三ツ沢競技場のゴールマウス前には、かつてのホームグラウンドからのリスタートに特別な想いを募らせる菅野孝憲の姿があった。
「僕をプロにしてくれた特別なスタジアム。横浜FCのサポーターからも多くのことを学ばせてもらった」と2000年代前半の若き日を回顧する。
名門・東京ヴェルディのアカデミーから2003年に横浜FC入り。ルーキーイヤーから正GKの座を掴み、柏レイソル、京都サンガと戦いの場を移すなかでも、常にファーストGKの立場でプレーを続けてきた。
柏ではJ2優勝からの1年でのJ1制覇を経験。ACLでも広州恒大(中国)やアル・シャバブ(サウジアラビア)といったアジアのビッグクラブと幾度も激突。2011年にはクラブワールドカップでネイマール(当時の所属はブラジルのサントス)とも対戦した。その経験値は現在のJリーグのGKのなかでも突出している。
179cmという身長は、モダンフットボールでは間違いなく小柄だろう。しかし、常に冷静なその立ち振る舞いはチーム全体を落ち着かせ、それでいて時には幼少期にヴェルディで注入された(?)やんちゃぶりも顔をのぞかせる人間味もある。
加えて技術力と戦術眼。モダンフットボールに対するアンチテーゼなどと本人は少しも思っていないだろうが、ひたすらにディテールを追求し、丁寧に研鑽を続けて長身GKに競い勝ってきた職人気質なその生き様はある種、異色だ。
サッカー選手って、一体何なのだろう?
そんな菅野は覚悟を持ってこのリーグ再開に挑んでいた。
理由のひとつはコロナ禍で“サッカー選手の意味”と向き合ったから。残念ながらサッカー選手という仕事は病気を治せるわけでもなく、収入を減らした人を救済できるものでもない。17年以上もプロサッカーの第一線に身を置いてきた菅野が「サッカー選手って、一体何なのだろう……?」と初めて自問した。
ストイックな性格ゆえ、自問に行き詰ったりもした。だが、それでも試合再開が近づいてくるとSNSなどを通じてさまざまな形で応援の声が届くようになってきた。「嬉しかったですよね。なかなか答えを見つけられないなかで、自分がやっていることを求めてくれる人がいてくれた」と、その気持ちに対して覚悟を持った。