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50歳荻原健司、肩書きを捨てて再出発。
小さなジャンプ台で蘇ったあの感覚。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byTomosuke Imai
posted2020/07/20 11:00
子供を対象にしたスキージャンプ教室など、新たな道を模索し始めた荻原健司。
無料で始めたスキージャンプ教室。
2019年7月、荻原は社名も肩書もなく、名前だけが書かれたシンプルな名刺を持って、ひとりで動き出した。
まず始めたのは、長野県飯山市のジャンプ台を使った子供対象のスキージャンプ無料講習会。地元の長野に限ると絶対数が少ないため、東京など都会に住むアルペンスキー経験者の子供たちを対象とした。不慣れなSNSを使って呼びかけてみると、思ったよりスムーズに参加者は集まったという。
「多い時は15人くらいになるんです。それだけ集まると長野県内のどのジュニアチームよりもよっぽど多いんですよ。幸いにも東京、埼玉、名古屋からも、面白がって来てましたから」
当日のイベントの切り盛りも荻原がひとりでやる。子供用の20m級のジャンプ台を使用するものの、いきなり飛べる子はもちろんいない。まずは着地斜面を滑り降りることから始めて、着地斜面に小さなコブを作った段差で飛び始め、踏切台に近い位置に特設ゲートを作り、“飛ぶ”というより“ポトリと落ちる”ようにしながら恐怖心を取り除いていく。
その間、荻原はジャンプ台を慌ただしく動き回る。初めて飛ぶ子と一緒にスタートゲートまで上って勇気づけ、まだ飛べない子を着地斜面の途中まで連れて行き、今度は再び上まで走って行って……。それをひとりでやるのだ。
「現場に行くと正直忙しいんですよ(笑)。でも子供たちと向き合って、素直で純粋でキレイな目がこっちを向いている時って本当に背筋が伸びる。絶対にふざけた態度はとれない。そういう関係性が凛とした感じで気持ちいいし、オリンピック選手を見ているのとは一味違うやりがい、楽しさがあります」
道具代の費用捻出が今後の課題。
アルペンスキーの素地がある子供たちは、ほとんどがその日のうちに20m級の立派なジャンプ台を飛べるようになるという。大空に飛び出す我が子の勇気に、親の方が感動した様子を見せることもある。できるようになる喜びを味わってもらえば、次のステップは続けてもらうこと。ただ、そうなると道具代がかさんでくる。ジャンプ用の板やブーツなど一式揃えれば10万円。成長の早い子供だけに、サイズアウトするサイクルも早い。
「そんなにお金がかかるなら体験レベルでおしまいにしよう、となるともったいない。自分の活動に賛同していただける方に費用を募って、それを資金にして、うちのクラブで各サイズを揃えて回していくことも考えないといけないなと。これからやるべき課題はどんどん増えてくると思います」