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内山高志×三浦隆司の強打者世界戦。
KO必至の試合前、右拳を痛めた王者。
posted2020/07/14 11:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
(第2回「三浦隆司の左が炸裂、内山高志がダウン。しかし見えた“勝ち筋”」、第3回「内山高志、TKO勝ち。両目とも腫れ、視界がない三浦隆司が「もう無理」」は記事最終ページ下にある「関連記事」からご覧ください)
ボクシングは両拳だけで戦うスポーツである。
そこに醍醐味があり、そこにドラマがある。
日本人対決のなかに、異質の名勝負があった。左拳を頼ったオーソドックスのチャンピオンと、左拳の一発に懸けたレフティーのチャレンジャー。左対左、一方の拳にありったけの集中と力が注がれた。
2011年1月31日、東京・有明コロシアムで開催されたWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ。
東洋太平洋王者時代から6連続KO勝利中の31歳、王者・内山高志は3度目の防衛戦で、挑戦者に同級日本王者(後に王座返上)の26歳、三浦隆司を迎えることになった。
強打者対決、KO決着必至――。
内山が16勝のうち13がKOならば、三浦は20勝のうち16がKO。ともにKO率8割以上を誇っており、中継するテレビ東京もとにかくここを強調した。
内山のジャブが「思っていたよりも痛くなかった」。
ボックス!
ベテラン島川威レフェリーの渋い声が開戦を告げる。
両者ともジリジリと間合いを詰めて、ジャブを交換していく。
チャンピオンの左がうるさい。内側を突けば、次はフック気味に引っ掛けてみる。テンポを変え、軌道を変えて打ち終わりに右フックを食らわないように注意を払う。押すように軽く、挑戦者の頬を何度も捉える。
三浦はこのジャブをどう捉えていたのか。
「もっと固いジャブを想定していたんですけど、思っていたよりも痛くなかったんです。表現するなら“ふわっとした感じ”。これくらいなら脅威じゃないなって。
ジャブをもらい続けてもいいから、自分の左を当ててやろうって。1ラウンド、戦いながらそう思ったことを覚えています」