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内山高志×三浦隆司の強打者世界戦。
KO必至の試合前、右拳を痛めた王者。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/07/14 11:00
右拳を痛めた状態で試合に臨んだ王者・内山(左)。三浦は“ボンバーレフト”を一発当てることを狙っていた。
「イチかバチかじゃないけど左を当てれば分からない」
ラウンド終了10秒前を告げる拍子木が鳴り、内山の右ストレートが飛んでくる。
次は自分とばかりにジャブの打ち終わりに左ストレートをお返しする。イメージをつかんで1ラウンドを終えた。
内山に対しては「とにかくうまい」という印象を持っていた。
以前スパーリングをしたときに「一発も入らなかった」苦い思い出がある。内山と当初対戦予定だった暫定王者ホルヘ・ソリスが気管支肺炎を患い、試合が流れてしまったために急きょ対戦相手に指名され、短い準備期間のなかで、左を重点的に磨いてきた。
「正直、内山さんと当時の僕は実力差はあったと自覚していたので、イチかバチかじゃないけど左を当てれば分からない、と。映像を見ていても打たれ強い感じはしなかったので当てるしかない、と」
先に目をそらしてしまった。
自分より上のレベルの世界チャンピオン。
高い壁をぶち壊すには、強い気持ちをつくっていかなければならない。最初の日本タイトル挑戦に失敗したときから試合前になれば「絶対にぶっ倒してやる」と相手を気持ちで飲み込もうと意識するようにしてきた。
だが試合前日、メディアのリクエストもあって計量後に内山とフェイスオフで向かい合った。先に目を離すまいと決めていたのに、先に目をそらしてしまった。
三浦はこう振り返る。
「世界戦の雰囲気って日本タイトルとは全然違う。メディアの数も、注目度も。その雰囲気にのまれたっていうのもありますけど、内山さんには何かオーラみたいなものを感じて。
後で振り返ると、そこから負けていたんだなとは思います。気持ちをつくっていったつもりですけど、心の底からつくれていない。これも今思うと、ですけど」