濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
無観客試合は“純度100%”の強さ!
那須川天心、90秒KOの衝撃を解析。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by(C)RISE
posted2020/07/13 12:45
デビュー記念日に1ラウンドKO勝利を収めた那須川天心。これで公式戦40勝無敗となる。
「また必殺技が増えちゃった」
ストレート系のパンチを得意としてきた那須川だが、この試合でダウンを奪ったのはすべてフックだった。
最初は左で倒し、続く2ダウンは右。ファーストダウンの直前に放った、前蹴りをさばいた手をそのまま当てる右フックも的確だった。
試合のない期間、ずっと磨いてきたフックの手応えは「また必殺技が増えちゃった」と言うほどだった。
「練習したことが出たというか、出るまで練習した」
インタビュースペースで「右フックにはこだわっていた?」と聞かれ、彼は「こだわってましたね。練習でこだわってました」と答えている。このあたりが那須川の、いわば“格闘哲学”だ。
「練習したことが出たというか、出るまで練習したんですよ。“そりゃ出るよな”って」
筆者の知る限り、試合に敗れた(勝っても不完全燃焼だった)格闘家のコメントとして最も多いのが「練習してきたことが出せなかった」だ。しかし那須川は練習してきたことが出せる。それは「出るまで練習した」からなのだ。
だが那須川自身は、特別なことをしているつもりはない。
「結局はやりこむこと、コツコツやることです」
何か“天才”ならではの特殊な方程式があるわけではないのだ。
「1つのことを覚えたら、前に覚えたことを忘れてしまうことがある。僕は前にやったことも忘れないようにしながら新しいことを覚えるようにしてきました。ずっと、少しずつ足していく作業を繰り返してきたんです」
その強さを体感した笠原は、こう語っている。
「攻撃の形だったり体つき、気持ちの部分で努力の違いを感じました。那須川選手は天才なのに努力もしている。努力しているからあそこまでいけるんだなって。自分はまだまだ及ばないと思いました」