スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
試合取材できずバルセロナのバルで
リーガ観戦したら、想定外だらけ。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byTaku Kudo
posted2020/07/06 11:30
バルセロナの老舗バルにて。コロナ禍で人数は少ないとはいえ、やはりフットボールを見たい人はいるのだ。
「今日もだめだ。中に1人しかいない」
数日後に改めて店へ出向くと、外のテラスで佇んでいた2代目のマルクは再び首を横に振った。
「今日もだめだ。中には1人しかいないよ。別の日にした方がいい」
その言葉が信じられず、他のバルも数軒覗いてみたものの、まるでロックダウン初期に逆戻りしたように人がいない。
少し考え、気がついた。雲ひとつない晴天の土曜日。人々がどう過ごすかといえば、フットボールよりビーチではないかと。
目当てのセルタ対バルサは17時キックオフだった。
「もっと遅い時間の試合は人がいるわよ」と、意気消沈しながら入ったバルの女性店員は言う。
やはり前から気になっていたその店は、昨年12月にオープンしたばかりの小洒落たバルだ。店の奥には大きなスクリーンが設置され、珍しいクラフトビールを飲みながら試合を楽しむことができる。
怒鳴られたおじさんはガチの……。
しかし、人がいない。
入店した時点で、店内にいたのはおじさん3人のみ。しかもそれぞれ1人でスクリーンを見つめている。
ほどなく3人組のおじさんが入ってきて、手前に座るおじさんに歩み寄る。知り合いかなと思ったら「ここはお前の家じゃないんだよ、馬鹿たれが!」と怒鳴りつけるので驚いた。言われた方は無視を決めこみ、他の客は何事もなかったようにスクリーンを見つめている。
シュールな光景が面白すぎて、怒鳴られたおじさんを観察してみると、Tシャツもマスクもエスパニョールというガチの“ペリコ(エスパニョールのファンの愛称)”ではないか。