スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
試合取材できずバルセロナのバルで
リーガ観戦したら、想定外だらけ。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byTaku Kudo
posted2020/07/06 11:30
バルセロナの老舗バルにて。コロナ禍で人数は少ないとはいえ、やはりフットボールを見たい人はいるのだ。
マドリー贔屓の陰謀論に花が咲く。
12分、バルサ先制。コーナーキックからのオウンゴールという意外な形だったこともあり、誰も見ておらず店内ノーリアクション。ちなみにセティエン監督も何が起こったかよく分かっていない様子だった。
16分、テアシュテーゲンがコスタのPKを止める。「パラドン(=スーパーセーブ)!」の声が響くが、先に動いたとしてやり直し。結局サウールに決められ、カウンターをバンバン叩く乾いた音が虚しく響いた。
45分、無駄なバックパスに前後の2人が同時に舌打ち。だいぶ苛立っている。
48分、セメドが倒されPK獲得。これも後半はじまったばかりで誰も見ていなかったのか、ノーリアクション。
50分、メッシがパネンカでPKを決める。さすがにみんな大興奮。しかしようやく盛り上がってきた矢先、この日2本目のPK献上で一気に静まり返る。
そしてリプレイを見て不可解なPK判定に大爆笑。その後はレアル・マドリー贔屓の陰謀論に花を咲かせ、試合が終わると「VAR、万歳!」の捨て台詞を残し、一斉に帰って行った。
「この店は極端にクレで、極端に……」
意外に盛りだくさんだった90分を終え、店主のパスクアルに話しかける。この店、元は1960~65年頃からあった酒屋で、14年前に買い取りバルに改装したのだという。
フットボールの再開もあり、徐々に客足は戻ってきているものの、以前と比べればまだまだのようだ。
「以前は試合のたびに奥のスペースまで人で一杯になっていたんだ。今はまだ客の側も遠慮しているし、我慢の時だよ」
近くに住んでいるので、また来ますね。そう言って手を差し出すと、店主は「今はこれだ」と言って肘を突き出した。
そしてニヤリと笑い、こう言った。
「この店は極端に“クレ(バルサファン)”で、極端にインデペンデンティスタだけどね」
久々のバル観戦。想定外の出来事の連続となったが、ロックダウン明けの身には良い刺激になった。
次はペリコおじさんお勧めのバルでバルサ対エスパニョールを見るのも面白そうだ。その際には、久しぶりにタムードのユニフォームを着て行くのもいいかもしれない。