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「2番最強説」は定着するか。
大田泰示はトラウトを目指す。
posted2020/07/06 15:00
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph by
Hideki Sugiyama
開幕戦で2番を任されたバッターを並べてみる。パが源田壮亮、栗原陵矢、鈴木大地、角中勝也、大田泰示、アデルリン・ロドリゲス。セは坂本勇人、乙坂智、近本光司、菊池涼介、平田良介、山田哲人。メジャーでは10年で定着した2番最強説が日本にも浸透してきたと感じさせる面々ではあるが、なかなか定着しない。その理由をファイターズの栗山英樹監督がこう話していた。
「2番として試合に出ると、どうしてもこれまで通りの2番バッターになっちゃう。選手の頭から2番像を消し去るのは本当に難しいよね」
これまで通りの“2番像”が発動するのは、1番バッターが出塁したノーアウト一塁の局面だ。盗塁を待つ、右方向へ打って一、三塁を作る、送りバントをする――いずれも求められているのは得点圏にランナーを置いて3、4番につなぐ仕事である。
しかしメジャーで2番に求められているのは長打であり打点だ。メジャーにおけるノーアウト一塁は、その状況が得点圏そのものだと考えられている。足の速いランナーを一塁に置いて長打が出れば一塁ランナーは生還する。なおノーアウト二塁で3、4番につなぐ。そうした発想のもと、栗山監督は3年前、大谷翔平に2番を打たせたことがあった。しかし大谷も2番はこうあるべきというところから脱却できなかった。
大田泰示が常識を変えたのだ。
そんなとき、栗山監督が見出したのが大田泰示だ。大田はその飛距離から振り回す印象が強いが、そうばかりではない。大田は言っていた。
「練習ではセンター方向をイメージして打っています。バットを内側から入れてボールを弾く意識も持っていますし、正面からトスを投げてもらってそれをピッチャーに打ち返す練習もしています。これはメジャーに留学したコーチに聞いたメニューで、自分なりに(マイク・)トラウト選手をイメージしているんです」
メジャーで2番最強説を実証してきたトラウトになろうと、大田は自分なりの2番を体現した。栗山監督からの指示は一つだけ。「泰示のバッティングをすればいい」。それは決して2番に求められるスタイルとかけ離れていたわけではない。栗山監督の描いた2番像を定着させる大田がいたからこそ、今、坂本も山田も2番を打っている。そうやって野球の常識は変わっていくのである。