Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
駒野友一と松井大輔の6月29日。
南アフリカW杯が僕らを変えた。
posted2020/06/29 11:30
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Asami Enomoto
「アイツのせいで負けたんですよ」
クラブハウスと練習場をつなぐ階段を下りてきた駒野友一を見て、サービス精神旺盛な松井大輔が笑いながら言った。サンダルをペタペタと鳴らしながら歩いてくる駒野は、ニヤリと微笑むだけで特に何も言わない。
ともに1981年生まれの2人は、小学生の頃からお互いの存在を知っている。初めて言葉を交わしたのは、駒野が「和歌山のスピードスター」として、松井が「京都のテクニシャン」として関西選抜に名を連ねた中学2年の時。あれから19年、今季からまた同じユニフォームを着る2人は、歩んできた道のりも、性格も、考え方も遊び方も違う。だから友人としての「密度」が濃いわけではないが、同じ時代に日の丸を背負い、同じ目標を持って戦ってきた仲間としての絆は深い。カメラの前に並んで立つ2人の無防備でのん気な雰囲気からも、それは十分に伝わってくる。
4年前と「逆にする?」
さて、どちらが右で、どちらが左か。
一瞬だけ迷って4年前の写真と同じ立ち位置で背筋を伸ばすと、松井がまた、いたずらな表情を浮かべて言った。
「逆にする?」
4年前の南アフリカで撮られた写真には、やはり同学年の阿部勇樹とともに涙を浮かべる2人の姿がある。呆然とうつむく駒野の隣に、寄り添ってその肩を抱く松井。つまり松井が言う「逆」とは立ち位置ではなく“配役”のことで、ちょっとしたブラックユーモアである。それでもまた、駒野はニヤリと微笑むだけで特に何も言わなかった。
2010年6月29日――。日本にとって4度目のW杯は、駒野のPK失敗によってベスト16で幕を閉じた。打ちひしがれる友に、寄り添う友。2人が涙に暮れるその光景は、あの大会を象徴するワンシーンとして人々の記憶に刻まれている。