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大事故で生死を彷徨った兄と共闘。
BMX榊原爽が五輪金へ決意新たに。
posted2020/06/18 07:30
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
(c)Saya Sakakibara
生死をさまよう大事故からよみがえり、懸命にリハビリを続ける兄の分まで、全力で東京五輪に突き進む。
自転車BMXレーシングのオーストラリア代表として東京五輪の金メダルを狙う榊原爽(さや)が、このほどオンラインで取材に応じ、1年延期になった東京五輪に対する変わらぬ情熱や、2月の試合中に転倒事故に遭った3歳上の兄・魁(かい)への思いを語った。
「東京オリンピックが一番の目標であることに変わりはありません」
前だけを見つめる20歳の目には覚悟が宿っていた。
6週間以上、ICUで治療。
最愛の兄がまさかのアクシデントに見舞われたのは2月8日のことだった。
オーストラリアのバサーストで開催されたBMXレーシングUCIワールドカップで転倒し、頭部に深刻な外傷を負った。爽も出場していた大会での信じがたいアクシデント。魁はそのままドクターヘリで首都キャンベラの病院に運ばれた。
翌2月9日に手術を受け、ICUでの治療が始まった。最初の数週間は状態を安静させるため医療技術を用いた昏睡状態に置かれ、点滴で栄養を補給しながら人工呼吸器を着けて命をつないだ。
重篤な状態から徐々に回復が見られるようになったのは事故から6週間が過ぎた後。3月下旬に人工呼吸器を外し、ICUから高度治療室に移った。
だが、どこまで回復できるか、医師も明言はできないうえに、「言語に障害が残る可能性が高い」との診断も告げられていた。魁がまだ23歳と若く、強靱な肉体を持っていることを希望のよりどころとするような日々だった。
そのころ爽は、キャンベラに投宿して看病を続けていた父・マーティン、母・由紀と離れ、シドニー近郊にある自宅に戻ってトレーニングを再開していた。
「兄と私の2人分、がんばりたい。魁のためにも東京オリンピックで活躍したい」
そう思って気持ちを奮い立たせていた。