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三沢光晴さんへの思いを込めて――。
ノア齋藤彰俊が放つバックドロップ。
text by
塩畑大輔Daisuke Shiohata
photograph byPRO-WRESTLING NOAH
posted2020/06/15 19:50
GHCヘビー級選手権をかけて潮崎豪(左)と戦った齋藤彰俊。今も三沢光晴さんへの思いを胸にリングに上がる。
今までよりも「一歩」踏み込んで。
あの日の事故も、木村さんへの誹謗中傷も「決してあってはならないこと」だ。取り返すことも、埋め合わせることもできない。
ただ、だからこそ前に進まないといけない。誹謗中傷に苦しむ人を少しでも減らす。
そのために、齋藤は発言をする。今までよりも「一歩」踏み込んで語る。無観客での試合が続く状況についてもしかりだ。
カメラレンズの向こうに、確実にファンはいる。ネット中継を通して「今までよりも試合を近くで見てもらえる」とプラスにとらえ、新しい一歩を踏み出す。
試合内容に対する反応を確かめながら戦えない部分も、補いようはある。
試合に対する思いを、事前、事後に説明していくことで、あらかじめ反応が高まるようにしていけばよい。
潮崎との試合終盤を、事細かく話したのは、まさにそういう意図だった。
これができれば、会場に観客を招けるようになった時に、コロナ以前よりもさらに盛り上がるはず。そんな思いもある。
そして、三沢さんのために、自分ができること。
それはやはり「遺言」に従い、事故を糧に前に進むことだ。
自分の立場だからこそ発信できるメッセージ。今回のタイトルマッチはまさにそうだった。リングの外でも動く。自動車事故などで、不運にも「加害者」になってしまった人の心の支えになることはできないか――。「自分なりの次の一歩」を模索している。
「いつか天に召されて、向こうで三沢さんに再会した時に、恥ずかしくないように」
齋藤彰俊は、前に進む。
まなざしを上げ、胸を張って。