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三沢光晴さんへの思いを込めて――。
ノア齋藤彰俊が放つバックドロップ。
text by
塩畑大輔Daisuke Shiohata
photograph byPRO-WRESTLING NOAH
posted2020/06/15 19:50
GHCヘビー級選手権をかけて潮崎豪(左)と戦った齋藤彰俊。今も三沢光晴さんへの思いを胸にリングに上がる。
複雑な思いで放つバックドロップ。
三沢さんの命日翌日に放送された、GHCヘビー級のタイトル戦。
終盤、齋藤は「自分だからこそ」の攻めで勝負をかけた。
雄叫びとともに、相手の顔面をわしづかみにして、そのまま持ち上げる。そしてマットにたたきつける。
あの日、三沢さんと戦う齋藤がタッグを組んだパートナー、バイソン・スミスの必殺技「アイアンクロー・スラム」だ。
バイソンは2011年、心不全で帰らぬ人となった。38歳の若さだった。あの「終わらなかった試合」を戦ったメンバーで、残されたのは2人だけ。運命的な対決で、齋藤はさらにたたみかけた。
三沢さんに断りを入れるように、天を指さす。バックドロップ。
「あの三沢さんが立てなかった技ですから、簡単に立たれてはいけない。でも、相手がバックドロップで立てなくなるのを、もう見たくはない」
エルボー、エメラルドフロウジョン。
複雑な思いのまま、フォールに入る。決まるか。
カウント3寸前で、潮崎が返してきた。そして、猛然と反撃してくる。
エルボー、エルボー、ローリングエルボー。
生前の三沢さんが乗り移ったかのような苛烈な攻め。そして、三沢さんの必殺技、エメラルドフロウジョン。
きれいに決められた。視界が大きくゆがむ。ダメだ。立てない。フォールされ、カウントは進む。薄れそうな意識の中で、ひとつの思いが浮かび上がる。
「これは三沢さんの技だ。この試合、これで決まってしまったら、オレも潮崎も、新たな一歩を進んで行けないんじゃないか」
ここで終わるのだけは、絶対にダメだ。意識がもうろうとする中、その一念だけで身体をはね上げる。
潮崎は続いて、ラリアットを繰り出してきた。本人の必殺技だ。効いた。もはや齋藤に立ち上がる力はなかった。