「ソニーでも練習やらなあかんの？」

　監督でもある父に頭を下げ、ソニーに籍を置いたままスペイン、そして世界最強のオランダリーグにレンタル移籍したのも、全ては東京で雪辱を果たすため。多くを得たオランダのチームからの残留オファーを断ったのも、オリンピックがあったからだ。

　その、思い描いてきた青写真が、ある日、突然破られる。実家に暮らす彼女には、家に帰っても逃げ場はない。

「ソニーでも練習やらなあかんの？」

　怒りにも似た不条理感を、彼女はどこにもぶつけることが出来ずにいた。

キャプテンとして距離を置いた姉。

「今までにないくらい、落ち込んでいるんだろうな……」

　姉の永井友理は妹の姿を見ながら、その胸中を読み取っていた。

　自身も日本代表である友理も、オリンピック延期を知り落ち込まなかったはずはない。ただ、今年1月からソニーの新キャプテンに就任した彼女には、果たすべき役目があるとも感じていた。

　投げやりにも見える妹の練習態度が、周囲の……特に代表に選ばれなかった選手たちに、良い影響を与えないのは分かっている。その様子を姉として見ていたら、「そういう態度は止めなよ」とストレートに口にしたかもしれない。ただ逆にキャプテンであるからこそ、やや距離を置いて見守った。

　それに姉には、「妹がこのままやめることは、絶対にない」との確信もあったという。

「ホッケーに対する情熱は、人一倍持っている子なので。ああやって言いながらも、結局は戻ってくるなというのは察していました」

　そう固く信じられたのは、妹の姿が、4年前の自分とどこか重なったからかもしれない。

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