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コロナ禍でも着々と育つ期待の若手。
22歳・琴ノ若は相撲一家の3代目!
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph byKyodo News
posted2020/05/28 18:00
令和2年の大相撲初場所千秋楽。上手投げで旭大星を破り勝ち越しを決めた琴ノ若。
部屋を救った飛躍のきっかけは弟弟子の存在だった。
3人いた幕内力士のうち西前頭3枚目で全休の琴勇輝、西前頭13枚目で2勝13敗の琴恵光の2人は十両への陥落が確実。
東前頭13枚目で大関経験者の琴奨菊も12日目の時点で4勝8敗。下に番付が4枚しかないことから幕内残留には残り3日で2勝が絶対的ノルマだったが、元大関は危機的状況から意地を見せて3連勝で幕内残留を決めた。
東十両2枚目の琴ノ若も8勝7敗と入幕は厳しいと思われたが、番付運よく翌場所の新入幕を決めたのだった。
中止となった夏場所の琴ノ若の新番付は西前頭13枚目。幕下時代から8場所連続勝ち越し中とまさに伸び盛りだが、幕下ではしばらく燻っていた時期があった。飛躍のきっかけとなったのが弟弟子の琴勝峰の存在だった。同じ埼玉栄高出身の2年後輩が破竹の勢いで番付を上げていき「めちゃくちゃいい刺激になった。負けていられない」と一念発起して殻を打ち破った。
「幕下のころは『なんで俺ばかり』と」
その琴勝峰は先場所、十両優勝を果たし、夏場所が晴れて新入幕となるはずだったが、仕切り直しで今度の場所が幕内デビューとなった。191センチ、165キロの恵まれた体格を有し、懐の深さを生かした四つ相撲と長いリーチから繰り出されるパワー全開の突き押しの両方を兼ね備える万能タイプの超逸材だ。
「自分は型がない分、立ち合いで強く踏み込んで自分の流れで攻める相撲を取っていきたい」という本人の言葉からはとてつもなく大きなスケールを感じさせる。
ベテランに陰りが見え始めると若手が順調に頭角を現す。
栄枯盛衰が激しい相撲部屋の中でなぜ、佐渡ヶ嶽部屋は50余年も幕内力士を維持し続けることができるのか。
元関脇の琴勇輝は以前、稽古についてこんなことを言っていた。
「僕も幕下のころは毎日、ガンガンやらされて『なんで俺ばかり』と思っていて、先輩からは『お前は期待されているんだよ。今は我慢のときだ』と言われても納得できなくて。それが十両に上がって親方から『おめでとう。よく頑張ったな』と言われた瞬間、(苦しかったことが)全部吹っ飛んだ。そこで初めて気づくんです」