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箱根10区区間新の創価大・嶋津は、
「人生で”モブ”にはなりたくない」。
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byTakeshi Nishimoto
posted2020/05/25 07:00
昨季、5000m、1万mの自己ベストを約25秒縮め、チームで最も成長したといわれた創価大の嶋津雄大。
ゴールしたら誰もついてきてなかった。
翌年の青梅では、前年の武田の戦略に倣い、5kmからペースアップ。だが、前年とは違い、2人の選手がピタリと追走した。
「しかも全然疲れているように見えなくて。何度か離されることもあったけど、絶対に1位を取りたいと思っていたので、ラスト500mで必死にスパートしたんですよ。で、ゴールして振り返ったら、誰もついてきてなかった。みんなが言うには『ラスト100mの嶋津はまじで速かった』って(笑)。そんなにあげてたことに自分だけが気付いてなかったんです」
70mの廊下を延々と往復した。
出身校は、強豪校とは無縁の都立若葉高校。しかも嶋津は暗い場所で目が見えにくくなる病気「網膜色素変性症」というハンデも抱えている。
「遺伝性の病気でおばあちゃんとお姉ちゃんも同じ病気なんです。夕方になると視界が悪くなるので、高校の時は70mぐらいの廊下をずっと行ったり来たり、何十往復とジョグをしていました」
たった70mの距離。トップスピードにのる間もない距離だ。
「幅が狭いとスピードって速く感じるじゃないですか。だから結構速いペースで走れてるぞ、と思っても1km5分ぐらいで(笑)。でも、距離は踏めていないけれど、ポジティブに考えると精神力は鍛えられますよね。1人でずっと同じところをグルグル回るんですから。あれに比べたらトラック25周の1万mなんて、たった25周でいいの? って感じですよ。気持ち的なゆとりは他の選手よりも大きいと思いますね」
高校で才能を開花させた嶋津には、いくつもの大学から声がかかった。そのなかから創価大学を選んだのは、同じ病気を抱え、嶋津より先に入学が決まっていた同級生の永井大育の存在があった。