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消えた球春。日本ハム広報が語る
コロナ禍に飲み込まれた3カ月。
posted2020/05/19 08:00
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph by
Hokkaido Nippon-Ham Fighters
薫風吹く、5月。眼下には青々とした芝が、きれいに生えそろっている。いつの日かボールを追って駆け回る少年少女のために丹念に養生された小さな野球場。準備万全で、幼い使用主たちの往来を待っている。
北海道日本ハムファイターズ栗山英樹監督は「栗の樹ファーム」に生活拠点を置いている。
札幌市内から車で約1時間の栗山町に、マイホームはある。丘陵に位置する小さな山林の中に、人気テレビ番組のようにポツンと住まいを構えている。
野球をモチーフにした不朽の名作映画『フィールド・オブ・ドリームス』をモデルに築かれた、ロマンが詰まった広大なエリアである。木々に囲まれ、生息している野生のリスが走り回り、軒先に用意された餌をむさぼる。フクロウの鳴き声が聞こえてくる夜もあるという。
自宅であるログハウスから見下ろせる場所に、前述した少年野球場はある。
前例のない春が来た。
「毎年5月、このくらいの時期になると芝をしっかり刈って整えて、誰かが野球場に遊びに来ていたりしてね。キャッチボールをする声なんかも、聞こえたりしていた。今年は、誰もいない」
新型コロナウイルス感染症に、野球のみならず、スポーツ界も侵された。
前例のない春であることを、痛切に知る。
いつもであれば、バットとボールを持参して戯れる子供たちの姿がある。それを目にすることも、歓声を耳にすることもなく初夏を迎えている。通常は一般開放されているバリー・ボンズ氏ら著名選手のグッズ等の展示スペースがある敷地内への立ち入りも、いまだ禁止されたままである。
主戦場とは疎遠となっていても、プロ野球、野球界が未曾有の事態に直面していることを実感し、自然に寄り添って暮らしている。人との直接的な関わりを、ほぼシャットアウト。新型コロナウイルスに細心の注意を払い、勇躍できる日が訪れることを信じ、息を潜めて待っているのである。
球団広報は現況でのメディアとの唯一の接点であるオンライン取材に対応するため、栗山監督との対面を許されている。ある日の取材を終えると、自然と共生している栗山監督がふと漏らした。
「コロナウイルスというか、あらためて自然ってすごいな、と。世界を、一瞬で止めてしまうんだから……。これから、人間として何をすべきか、野球人としてどうすべきか問われていくと思う」