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登山界の人気者・田中陽希の楽観性。
「三百名山ひと筆書き」は足止め中。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byYoki Tanaka
posted2020/05/20 08:00
コロナでの登山自粛を受けて、山形県の空き家で「三百名山全山人力踏破」を一時休止中の田中陽希。
旅であり挑戦であり仕事でもある。
屋久島を出発して2年半。いま、自らの旅を振り返る時間にもなっているのではないか。
「あらためて感じているのは、この旅が自分にとって半分は仕事になっていたんだなということ。これまでの百名山、二百名山のひと筆書きは未知の部分が多く、挑戦の要素が多かったんですけれど、今回は少し意味合いが違います。旅でもあり挑戦でもあり、仕事でもあると」
田中はアドベンチャーレースチーム「イーストウインド」に所属しており、旅はチームを離れての活動になるため、過去2つの旅では7カ月というタイムリミットを設けていた。しかし今回は期限を定めていない。自らの集大成と位置づけているからだ。悔いのない旅にしたいと、1座ずつ山としっかり向き合いながら登ってきた。TV放送からも、行く先々の土地で食や文化を堪能していることがわかる。
それにも関わらず、「仕事」だという意識を強くしたとはどういうことなのか。
歩いて山に登って対価をもらう。
あまり知られていないことだが、3つの旅は田中自身が企画したものだ。そこに撮影スタッフが同行し「グレートトラバース」の番組として制作されている。
「以前はよく旅先で『お仕事で山に登るなんて大変ですね』と言われたんですね。その度に、いえいえこれは自分の挑戦ですからと答えていたんですけれど、なかなかわかってもらえなくて。
自分はプロアドベンチャーレーサーであってプロ登山家ではないんですけれど、今回の旅では、これまで以上に多くの企業にサポートしてもらっている。自分は歩いて山に登って対価をいただいているわけです。いまだって資金に不自由することなく暮らせている。だから僕にとって、旅は生業なんですよ」
そう考えると、もう少し撮影スタッフが撮りやすいよう意識して動いた方がよいのだろうかとも悩む。しかしそうなると、完全に番組のための旅になってしまう。
「他のプロスポーツ、たとえばサッカーや野球などのことを考えると、自分も対価に見合ったパフォーマンスをしなければとは思いますね。かつての旅では、いまほどプロとしての自覚がなかった気がします」