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登山界の人気者・田中陽希の楽観性。
「三百名山ひと筆書き」は足止め中。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byYoki Tanaka
posted2020/05/20 08:00
コロナでの登山自粛を受けて、山形県の空き家で「三百名山全山人力踏破」を一時休止中の田中陽希。
山を登って降りたら別の県。
その前日、鳥海山の積雪量を見るためにルートの下見に出かけると、山はまだまだ冬山の様相を呈していた。とくに樹林帯は雪が多く、灌木帯では濃霧が立ちこめホワイトアウトした。
「この下見で登頂はかなり厳しい行程になることがわかりました。登る当日よりも、前2日間の天気が大きなカギを握る。何度も下見が必要だろうと考え、しばらく山荘に滞留することに決めたんです」
理由はもうひとつあった。山形県知事が行った緊急会見に「県をまたいでの移動は極力控えること」という内容が含まれていたからだ。
「当初のスケジュールでは、鳥海山登頂の2日後に神室山に登る予定だったんですね。神室山を下りると秋田県ですから、県をまたぐことになってしまう。そうなると先には進めませんから、それなら慌てずじっくり鳥海山に向き合おうと思いました」
無事、鳥海山の登頂を果たした頃には、緊急事態宣言は全国に拡大していた。麓に下りた田中は市役所の方の協力を得て、市内の空き家を貸してもらう。それがいま滞在している一軒家だ。撮影スタッフは東京に引き上げた。
家財道具の揃った家で1人暮らし。
「どれくらいの滞在になるかわからなかったので、布団や調理器具など家財道具が揃っていたのはありがたかったです。いまは朝起きてご飯をつくって、ニュースを見てお昼ご飯を食べて。午後に走りにいって、晩ご飯をつくって寝る。ほんとにのんびりした生活を送っていますよ(笑)」
家の裏手に川があり、河川敷を10kmほど走ると海に出る。上流に向かえば山があり、トレーニングには申し分ない環境だ。ときには、長い階段をひたすら上り下りして、登山で必要な筋力維持に努める。トレーニングの帰りにスーパーに立ち寄って、食材を買う。