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登山界の人気者・田中陽希の楽観性。
「三百名山ひと筆書き」は足止め中。
posted2020/05/20 08:00
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph by
Yoki Tanaka
日本三百名山という言葉をご存知だろうか?
深田久弥が1964年に選定した「日本百名山」と、その意志を継いだ深田クラブによって選定された「日本二百名山」、日本山岳会によって選定された「日本三百名山」を合わせたもの。「日本二百名山」と「日本三百名山」にはひとつだけ重複していない荒沢岳(新潟県)という山があり、その一座を加えると実質301座あることになる。
それを人力のみで全山踏破しようと挑戦している男がいる。プロアドベンチャーレーサーの田中陽希だ。その様子は放送中の『グレートトラバース3 日本三百名山全山人力踏破』(NHK BSプレミアム)が追いかけており、田中は「ヨーキ」の愛称で登山愛好家の人気者になっている。
田中はその山々を“ひと筆書き”で登頂するため、2018年元日に屋久島を出発し、海をシーカヤックで渡り、山と山の間の道路も走って進んできた。人力踏破の旅はすでに3年目に突入し、いよいよ今年10月に北海道・利尻岳でゴールを迎えるはずだった。
ところが突然のコロナ禍により、山形で足止めされてしまった。酒田市で空き家を借りての自粛生活は、すでに1カ月近くに及んでいる。ザック1つで旅を続けてきた田中は、いま東北の地でどんな時間を過ごしているのか。電話で話を聞いた。
山で人に会うことは稀だが……。
田中が新型コロナウイルスについて初めて耳にしたのは昨年12月、福島県の会津若松を旅していたときのことだ。
「中国で新しいウイルスが蔓延しはじめたと。かつてSARSやMERSの感染流行もありましたから、日本に入ってこなければいいなと気になっていたんです」
その後、福島や栃木の山に登り、暖冬の影響で登山続行が難しくなったことから、一度、神奈川の自宅まで走って戻る。ファンとの交流会やスポンサー企業への挨拶などを済ませ、2月中旬に再び出発して、北へ向かった。
山ではほとんど人に会わないことから“三密”には該当しないものの、県や市町村境をいくつもまたいで旅を続ける田中にとって、不安は決して小さくなかった。