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登山界の人気者・田中陽希の楽観性。
「三百名山ひと筆書き」は足止め中。
text by
千葉弓子Yumiko Chiba
photograph byYoki Tanaka
posted2020/05/20 08:00
コロナでの登山自粛を受けて、山形県の空き家で「三百名山全山人力踏破」を一時休止中の田中陽希。
怖かったのは、自分が人に感染すこと。
「3月に入ると感染拡大が深刻になってきて、もしかしたら旅を中断することになるかもしれないと思い始めました」
田中は屈強な体格に似合わず、繊細な心の持ち主だ。そのため感染予防にも細心の注意を払った。同行する撮影スタッフとも距離を保ちながら接し、常に除菌スプレーを携行して、応援者からの写真撮影には応じても、握手は控えるようにした。
「そうはいっても、地方はまだのんびりした空気だったんです。寒い時期なので、もともと外に出る人も少ないですしね。ただ僕の場合は山から下りて、コンビニに寄ったり外食をしたり、町中のホテルに宿泊したりする。それが心配でした」
いちばん怖れていたのは、自分が知らずに感染して無症状のまま誰かに感染してしまうことだ。撮影スタッフが移動のために使うバンが東京ナンバーであることも、地域の人たちを不安にさせてしまうのではないかと気になった。
旅の様子を発信していたSNSもストップ。
山形入りしていた田中は、4月4日、故郷の北海道を思わせる広大な庄内平野を歩きながら、それまでほぼ毎日欠かさず投稿していたSNSの発信を一時休止することを決める。田中の親世代のファンは、我が子のことのようにこの旅を応援しており、日々の投稿を楽しみにしているが、やむを得ない判断だった。
「外出自粛によってたくさんの方がこれまでと同じ生活を送れないなかで、自分が毎日歩き続け、旅を楽しんでいることを発信するのは適切でないと思いました。不愉快に思われる方もいらっしゃるでしょうから」
4月7日、7都府県に緊急事態宣言が発令される。このニュースを田中は鳥海山の中腹にある山荘で聞いた。ここには6年前の『日本百名山ひと筆書き』でも一泊したが、今回はもう少し長くお世話になるかもしれないと感じていた。