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怪我とうつ病に悩んだダイスラー。
救世主の“いま”は誰も知らない。 

text by

遠藤孝輔

遠藤孝輔Kosuke Endo

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photograph byGetty Images

posted2020/05/07 20:00

怪我とうつ病に悩んだダイスラー。救世主の“いま”は誰も知らない。<Number Web> photograph by Getty Images

ドイツサッカーの象徴、となるはずだったセバスティアン・ダイスラー。彼に平穏な日々が訪れていることを願いたい。

5度の手術のち、うつ病を公表。

 その巨大なプレッシャーとともに、ダイスラーを苦しめることになったのが怪我と心の病だ。

 バイエルンに加入する2002年夏までに5度の手術を経験し、エントリーが確実視された日韓W杯を欠場。そして、うつ病を患っている事実を公表したのが'03年だった。これを受け、ドイツ代表のルディ・フェラー監督(当時)は選手への心理的ケアの重要性を訴え、バイエルンも選手への全面的なサポートを表明した。

 しかし、そのどれもがダイスラーのキャリアを上向かせる処方箋にはならなかった。EURO2004を欠場した後にピッチに復帰したものの、自国開催の'06年W杯出場が絶望的になる怪我を負うと、うつ病を再発。心身ともに消耗しきったダイスラーは'07年1月、27歳の若さで現役生活を退く決断を下した。

 何度も何度もメスを入れた「自分の膝をもう信じられない」という言葉を残して、だ。

10年以上、公の場から姿を消している。

 そして、『ツァイト』紙のインタビューに応じた'09年10月を最後に、公の場から完全に姿を消した。ダイスラーと同じレーラッハ出身で、バイエルン時代の恩師であるオットマール・ヒッツフェルトは故郷の人々に訊ねたり、本人宛に手紙を送ってみたりしたが、近況を知る手掛かりは何1つ掴めなかったという。

 どこで何をしているのか。自分のような立場の者が俗世から距離を置く彼の消息を探るのは配慮に欠けるだろう。

 正直に言うと、ダイスラーのプレーを生で観たことがない。

 しかも、僕にドイツサッカー以外への浮気心を芽生えさせたジダンやピレスのように、コンスタントに超絶プレーを見せてくれたわけでもない。調子の波が激しかったのだ。

 それでも好調時はそれこそ誰も止められなかったし、ドリブルする姿もキックフォームも何もかもが美しかった。彼に惹かれるのは、きっと誰よりも想像力を膨らませてくれる存在だったからに違いない。

【次ページ】 40歳の彼が、幸せであってほしい。

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