ゴルフPRESSBACK NUMBER
申ジエの凄みと渋野日向子の思いやり。
全英女子で究極の緊張からの、笑顔。
posted2020/05/07 07:30

2012年全英女子オープン最終日。18番ホール第3打目を考える申ジエ。ロイヤル・リバプールGCは真っ赤な夕日が差し込んでいた。
text by

南しずかShizuka Minami
photograph by
Getty Images
忘れられないスーパーショット、1番好きな選手、歴史に残る名勝負――「私のナンバー1」というテーマで、真っ先に思い浮かんだのが「勝者の笑顔」である。
私は時々メディアへ寄稿する機会をいただくことこそあるが、本職はフォトグラファーである。だから印象に残る場面というのはファインダー越しに見える世界だ。
その私が衝撃を受けた場面は……カメラだけでは物足りず、体全身が記憶している、という感じだった。
ADVERTISEMENT
2012年の全英女子オープンゴルフ(以下、全英女子)最終日18番の申ジエ(韓国)の笑顔――月日が経ってもあの時の場面を鮮明に思い出すことが出来るほど、強烈な印象を抱いたシーンだ。
なぜ、その申の笑顔が「私のナンバー1」なのか……申が年間世界ランク1位になった頃の話から始めたい。
パジャマ姿だった世界ランク1位の選手。
2010年の初夏、私は申の初めての取材のため、当時、彼女が拠点としていたアトランタの自宅へレンタカーで向かった。それまで申とは試合会場で挨拶を交わす程度であり、ゴルフ場以外の場所で会うのは初めてであった。
史上最年少で世界ランク1位になった申を単独で取材をするという緊張と不安が入り混じる。ところがこちらの思いとは裏腹に、自宅の扉を開けてくれた申はパジャマ姿だった。しかもスッピンで髪の毛がハネている!
まさかの寝起き……いくら今回の取材のテーマが選手の私生活とはいえ、こんなに無防備とは。22歳の素顔に、思わずこちらの肩の力が抜けた。
パジャマから着替えるのを待って、インタビューを始める。
申らしく、どの質問にもゆっくりと丁寧に答える。
ところが、ある質問が出た時、それまでのオフモードとうってかわって世界ランク1位の自信が垣間見える瞬間があった。
「年間通してトップ10に入る選手と、トップ10以下の選手では何が違うと思いますか?」 と聞いた時である。
「勝負どころで力を出せるかどうかですね」と申は即答したのだ。
「私は力を出せますよ」
答えた後、申は私に穏やかに微笑んでみせたのだ。
その時、ふと視線を下に落とすと申の手が目に入った。その両手はマメだらけだった――自信の裏づけには想像を絶する練習量があったのである。