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“スーペルピッポ”が指揮を執る、
ベネベントのセリエA復帰は幻か?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/05/02 11:40
ミランでの屈辱を経て数年、インザーギ監督とベネベントのセリエA復帰での臥薪嘗胆が果たせるときは来るのだろうか。
恩師リッピが心待ちにする瞬間。
彼らを束ねてドイツW杯を制した名将マルチェロ・リッピは、ユベントス監督時代の愛弟子たちと同様、インザーギらがセリエAに再び集うことを心待ちにしている。
「現役時代にわからなかったことが指導者になってみてようやく理解できるようになるものだ。ベネベントの快進撃は、インザーギが過去の苦い経験を生かし成長した証だろう。ジダンやコンテ、デシャン……指導者に転向した私の教え子たちは素晴らしい成果を出している。インザーギとネスタ、彼らもいまこそ世に出る番だ」
今年2月末、実弟シモーネ・インザーギ率いるラツィオが20年ぶりにセリエA単独首位に立ち、史上初めて“兄弟監督が1部・2部リーグで同時首位”という椿事が起きた頃、兄フィリッポはベネベントとの来季契約延長にサインした。
延長の条件は本来、セリエA昇格だった。しかし、現指揮官に惚れ込んだビゴリート会長の腹は決まっている。
「もしセリエBに残らざるをえなくなったとしても、うちの来季のベンチは彼に任せるよ」
増えた白髪と己の内側を顧みて。
インザーギ監督は毎朝鏡を見て、白髪が増えたなとひとりごちる。そして、己の内側をのぞいてみる。
「俺は俺、何も変わっちゃいない。目を瞑れば、屋根裏部屋でシャツを丸めたボールをシモーネと蹴り合っている自分がいる。世界中のスタジアムでプレーしている自分や、いまベンチにいる自分も見える。時間は過ぎていくものだ。未だに俺のことを『ストライカー』と呼んでくれる人もいるし、選手たちにしてみれば俺は『監督』以外の何者でもない。でも、俺は俺、(愛称)ピッポさ。サッカーに恋している少年ピッポのままさ」
世界的災厄の終息は何より先決だ。
それでもインザーギ監督のベネベントをセリエAで見られないのは、あまりにも惜しい。