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“スーペルピッポ”が指揮を執る、
ベネベントのセリエA復帰は幻か?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/05/02 11:40
ミランでの屈辱を経て数年、インザーギ監督とベネベントのセリエA復帰での臥薪嘗胆が果たせるときは来るのだろうか。
インザーギが受けた手の平返し。
インザーギは、少し変わった。
2012年の現役引退から8年が経つ。選手時代の匂いが少し薄れ、指導者として熟れてきた、と言った方が正しいかもしれない。
なまじ現役時代の名声が大きいと、ネームバリューを期待するクラブからチャンスを与えられやすい反面、うまく行かなかったときの手の平返しや叩かれ具合も激しい。
引退からわずか2年で、愛する古巣ミランのトップチーム監督に就いた。セリエAに挑戦するのも大人のチームを率いるのも初めてだった。手にした10位は新人監督としては大健闘だったがEL出場権を逃し、クラブの帳簿に大打撃を与えたため、泣く泣くミランのオフィシャル・スーツを脱いだ。
1年の充電期間の後、3部ベネツィアを昇格に導くとボローニャに招かれ、2度目のセリエAに挑んだ。
しかし、チームは開幕から低迷した。インザーギ監督は降格圏から立て直すことができず、1月末にベンチを追われた。今年に入り、ボローニャの一部選手からは「前の監督のときは毎週戦術が変わって混乱した」との愚痴が漏れてきた。
監督になった以上、もう“スーペルピッポ”の威光は通じない。
毎日グラウンドにいる方が性に合う。
だからこそ、なのか。インザーギの闘志は2部でも衰えるどころか、余計燃え盛っている。
今季開幕前に受けた伊紙『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューでは、ダイレクトに問われた。
“下位カテゴリーの監督”というレッテルを貼られる怖さはないのか?
インザーギの答えはこうだ。
「そんなもの、興味ないね。偉大な監督たちは長い指導者キャリアの間に必ず困難な時期を経験している。もしこの仕事に自信がなかったら、今頃TV解説者をやってるよ。でも、俺は毎日グラウンドに立つ方が性に合ってるんだ」
もしリーグ戦が中断していなければ、今頃ベネベントはとっくに優勝していて、残る昇格枠2つをめぐる争いが面白くなっている時分だ。
3位フロジノーネにも昇格のチャンスが十分にあった。率いるのは、ミランでもイタリア代表でも長くインザーギと同じ釜のパスタを食ったアレッサンドロ・ネスタだ。