オリンピックへの道BACK NUMBER
競泳エース・瀬戸大也の挫折と再起。
五輪延期で高みを目指し下した決断。
posted2020/05/06 11:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
登りつめるはずの山がなくなった。そのときに受ける喪失感はいかほどか。
今夏に予定されていた東京五輪は延期を余儀なくされた。そのとき、失意に沈んだ選手は少なくなかった。
競泳の瀬戸大也もそうだったろう。近年は充実の一途にあり、しっかりと2020年へ照準を合わせていた。
個人メドレーとバタフライを主戦場とする瀬戸は、2019年の世界選手権で、200m個人メドレーと400m個人メドレーの金メダルを獲得。さらに、200mバタフライでも銀メダルを獲得。個人種目としては3種目でメダル獲得という日本選手初の快挙も成し遂げていた。
日本競泳のエースと呼んでさしつかえない活躍を見せた。
日本水泳連盟の規定にのっとり、個人メドレーの2種目で五輪代表の内定も勝ち取っていた。
2020年を見据えた強化が実り、上り調子にあった。
「延期が決まった時は喪失感で抜け殻に」
その矢先、東京五輪の延期が決まった。
世界の情勢も考えれば、やむを得なかったとはいえ、受け入れるのは容易ではなかっただろう。しばらく時を経て、瀬戸は自身のインスタグラムで、心境を綴った。
「東京五輪の延期が決まり2週間が過ぎました。
その間に日本選手権の延期も決まり、自分の中で来年に向けての気持ちの整理ができず、今までコメントを出せずにいました。
覚悟を持って東京オリンピックに向けてトレーニングや調整をしてきたからこそ前向きな発言ができませんでした。延期が決まった時は喪失感で抜け殻になりました。
自分はすぐ気持ちを切り替えて来年頑張りますなんて言えなかったし今でもまだ完全に切り替えられてない日々が続いています。コロナの関係もあり練習も全くしてない状態です」
いつもそうであるように、率直な思いがあふれていた。