モーターサイクル・レース・ダイアリーズBACK NUMBER
MotoGP史に今も輝く加藤大治郎。
ロッシをも恐れさせた永遠の天才。
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2020/04/27 18:00
世界グランプリに参戦して、わずか2年あまりでその頂点に手をかけるまで、一気に駆け上った加藤大治郎。
インタビュアー泣かせの本当の顔とは?
大ちゃんの取材をしていて、天才ならではのコメントも多く聞いた。
「いまのバイクの仕上がりはどれくらい?」というありきたりな質問を誰かがしたとしよう。そんな質問に対して大ちゃんは「聞いてる意味がわからないんだよね」と、あとでこっそり僕に言った。「なぜ?」と聞くと、「だって、いま抱えている問題をクリアできたら、次の問題が出てくると思うし……。100%が分からないでしょ」。
そういう答えを導きだすまでに、大ちゃんはちょっと時間を掛けるのが常だった。しかし、それを待ちきれない多くの記者は、決まって、次の質問に切り替えてしまう。そのとき、どう答えようか考えている大ちゃんの思考が「まあ、いいや」と止まる。
大ちゃんのインタビューは、あまり話してくれないので難しいと言われていたが、そういったことが理由だった。だから、大ちゃんは「話すのを待ってあげないといけないライダー」だったのだ。
ゼッケン「74」の「永遠のヒーロー」。
大ちゃんの後に続いた者たち、そして大ちゃんの現役時代を知らない日本の若い選手たちがいま、レーシングスーツに大ちゃんのトレードマークであり、MotoGPクラスの永久欠番になった「74」のワッペンを縫い付けている。そしてその他の多くのライダーが「7」か「4」の数字が入ったゼッケンを好んで付けるようになった。
大ちゃんは、世界チャンピオンを目指す日本の選手たちにとっての「永遠のヒーロー」になったのだ。
今年も加藤大治郎が亡くなった4月になった。
近鉄四日市駅前からバスで20分ほどの距離にある三重県立総合医療センターに通った辛くて苦しい日々が蘇る。そして、17年前に涙しながら書いた「加藤大治郎よ、永遠に」の思いが、いまもレースの世界に息づいているということを感じる。
昔、「大ちゃんという速い子がいる。あの子は世界チャンピオンになるよ」と聞いた時から生まれた伝説。それは、これからも語り継がれていくことだろう。