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三浦隆司のボンバーレフトが炸裂!
ローマン戦、戦慄のボディーブロー。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNaoki Fukuda
posted2020/04/29 11:30
強烈な左を武器にWBCスーパーフェザー級王者を4度防衛した三浦。写真は3度目の防衛を果たしたエドガル・プエルタ戦。
いつも同じメンタルトレーニングの本を読む。
普段は温厚な彼だが、試合になると一変する。
入場シーンで既に“怖すぎる目”で、リングをニラミつけている。一度間近で見たことがあるが、こっちに目は向いていないのにびびって足がすくんだ。
いわゆるゾーン(極度の集中)。
彼はこの状態を呼び込むために1週間前から、いつも同じメンタルトレーニングの本を読むことにしている。試合当日に読み終えたところで完了だ。
日本チャンピオン時代からのルーティンで、1冊目も読みこんでボロボロになった。このローマン戦でもアメリカに同じ本を持ち込み、試合になるとゾーンのスイッチが自然と入った。
好きなフレーズがあるという。
「自分が思う最高のこと、最悪のこと。現実に起こり得るのは、その間なんだ、と。凄く気持ちが楽になるんです。そう考えると最悪のことは考えなくていいってなるじゃないですか。上を見るのはいいけど、下を見る必要はないなって」
劣勢だろうが、いつか決めてやる。
狙うのではなく、「ここだ」とビビッとときに爆発できるように――。
間違いなく、ボクシング人生のベストパンチ。
ローマンに勝って世界再挑戦の切符をもぎ取ることができた。
だがこの半年後、ベルチェルトに判定負けで返り咲きを果たすことはできなかった。それからわずか12日後にSNS上で引退を表明している。
WOWOWの特集を観てから、地元・秋田で指導者として次の人生を歩んでいる彼に後日、連絡を入れた。
「間違いなく、あのボディーが僕のボクシング人生のベストパンチですね」
迷うことなく、彼はそう言い切った。
スペクタクルな展開と、スペシャルな一発が重なり合った奇跡のシーン。
そこには三浦隆司というボクサーのすべてが詰まっていた。