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自身の名がつく6つの技を持つ男。
白井健三が目指す“感動する体操”。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKYODO
posted2020/04/25 11:30
昨年12月の豊田国際競技会のゆか演技で「シライ3」「シライ/ニュエン」の大技を決め、ガッツポーズ。同大会トップの谷川翔とわずか0.1点差の14.500点の好演を見せた。
30人中最下位という信じがたい順位を記録。
だが、白井はその状況から目を背けることをしなかった。
金メダルをいくつも持っているトップアスリートでありながら、体操に対してつねに真摯。審判員の指摘やアドバイスに耳を傾け、意見交換もしながら、ひねりの際のヒザの開きや着地を懸命に改善していった。
ところが'19年2月下旬、左足首を痛めるアクシデントに見舞われてしまう。
ケガの回復途上で出た4月の全日本個人総合選手権で、30人中最下位というにわかには信じがたい順位を記録。5月のNHK杯では23位まで順位を上げて意地を見せたが、6月の全日本種目別選手権ゆかで3位にとどまったことで、'13年から続いていた世界選手権の連続出場がストップした。
この間には、ゆかのH難度「シライ3(後方伸身2回宙返り3回ひねり=伸身リジョンソン)」や、F難度の終末技「シライ/ニュエン(後方伸身宙返り4回ひねり)」を封印し、難度を落した構成を組んだが、それでも実施点を拾うことができなかった。
左肩亜脱臼および筋肉の複数箇所を損傷。
しかも、悪いことにアクシデントはこれだけにとどまらないのである。
8月には鉄棒の練習中に手放し技のコールマンで落下し、左肩亜脱臼および筋肉の複数箇所を損傷。8月下旬の全日本シニア選手権を欠場せざるを得なくなった。
鉄棒の車輪すら満足にできない日々が続く中、練習といえば陸上部の練習の合間を見計らっての400mダッシュ。秋にあった世界選手権は「見たら動けない自分が嫌になると思ったので」(白井)、あえてテレビに目を向けなかった。
けれども、どん底に落ち込んだことが白井を強くさせた。
久々の笑顔が浮かんだのは12月の豊田国際競技会。順位のつかないオープン参加で出場した白井は、「半年ぶりの試合で、体操を出来る喜びそのものを楽しみたい」と言い、ゆかでH難度の「シライ3」を冒頭に成功させ、終末技はF難度の「シライ/ニュエン(後方伸身宙返り4回ひねり)」を成功させたのだ。