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自身の名がつく6つの技を持つ男。
白井健三が目指す“感動する体操”。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKYODO
posted2020/04/25 11:30
昨年12月の豊田国際競技会のゆか演技で「シライ3」「シライ/ニュエン」の大技を決め、ガッツポーズ。同大会トップの谷川翔とわずか0.1点差の14.500点の好演を見せた。
人を感動させられる演技は、なかなかない。
そういえばリオ五輪前、白井はジャッジに対してこのように語っていた。
「審判も人それぞれだと思うし、好みはあると思います。だからこそ、有無を言わせないような演技、どの審判にも点数を出してもらえるような演技をやりたい。
ただ、(内村)航平さんはこれができているのですが、他の選手はなかなかできないんですね。人によって好き嫌いはあるし、僕の体操が嫌いな人もいると思います。やはり、審判も人ですから、体操は心をつかむことが一番大事なんです」
「逆に言うと、得点やタイムで決まる競技は、いくら人が感動しても順位は順位じゃないですか。でも、体操は『2位だったけど感動したよ』と言ってもらえることがあるんです。順位じゃない感動がある競技というところにも体操の良さを感じます。
もちろん、優勝した人はすごい。ですが、人を感動させられる演技は、なかなかないと思うんです。そういう演技ができれば、2位でも3位でもいいかなと、僕は思っています」
4月から5月にかけてのこの季節、山林の道ばたを見るとふと目に止まるイチリンソウという花がある。たった一輪、白く咲く姿にたくましさを漂わせるこの花は、流されることを拒み、自力で這い上がってきた白井とどこか重なる。
体操の東京五輪日本代表はまだ決まっていない。1年後に延期されたことで、選考会の詳細も未定となっているが、いずれにせよ複数の国内大会で団体メンバーの4人が決まっていく見込みだ。
順境で伸び伸びと成長していったリオ五輪までの4年間から一転し、逆境を乗り越えて再び自分らしさに立ち返った白井。人の心をつかむ体操を見られる日が待ち遠しい。