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超一流商社を辞めて「海のF1」へ。
笠谷勇希がシェアハウスで見る夢。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph bySail GP
posted2020/03/14 08:00
世界で7カ国しか出られないレースに、日本は堂々と名を連ねている。笠谷勇希もそのクルーの一員だ。
「辞めなければ、今はないじゃないですか」
シドニーにおける開幕戦は3位に終わったが、まだまだ下を向く時期ではない。
「思った通りといえば思った通り。操船技術がまだ足りない。でも、試合を重ねれば重ねるほど結果はついてくるはず」
愚問だと知りつつも、改めて会社を辞めて後悔したことはないのかと問うと、こう穏やかに語った。
「ないですね。辞めなければ、今はないじゃないですか。あの時、踏み出せたから今、このヨットに乗れている。普通、乗れないですよ。まあ、そこまで(会社の)給料が高くならないうちに辞めたのもよかったのかもしれませんね」
セールGPは、まだ誕生したばかりだ。将来的には10カ国が参加し、シーズン10戦を理想としているが、今後、選手に支払われるギャラも含め、どうなるかはまだ不透明な部分も多い。笠谷もサイドビジネスを継続しながら、セールGPに参戦している。
「未知」を「期待」に変換して。
先が見えない状況に直面したとき、人は2種類のタイプに分かれる。「未知」という言葉を「不安」に変換する人と「期待」に変換する人だ。笠谷は明らかに後者のタイプだ。大学受験にトライしたときも、ボートの世界を知った時も、ヨットに乗り換えた時も、そうだった。自分がどうなるのかわからない環境ほど夢中になれた。
「50ノット」の音は、来年、日本にもやってくる予定だ。笠谷の表情が輝く。
「日本開催が待ち遠しいですよね。お客さん、どんな反応するんですかね」
セールGPのスピード、優美さ、ど迫力を目の当たりにすれば、今の笠谷が笑っていられる理由を即座に理解することができる。