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自転車界の第一人者、別府史之が語る
欧州で戦うプロサイクリストの食事術。
posted2020/03/07 11:30
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Getty Images
今シーズンから、フランスの自転車ロードレースチーム、NIPPOデルコ・ワンプロヴァンスへ移籍した別府史之。2005年に世界最高峰ディビジョンのUCIプロチーム(現UCIワールドチーム)入りして以来、常にトップシーンで活躍してきた日本自転車界の第一人者が、欧州キャリアをスタートさせた古巣に舞い戻った。
新天地で掲げる目標は、3人の日本人を含むチームの若手にその経験を伝えることだけではない。東京五輪の代表メンバーに選出されるべく、自分自身のいまの力を証明することも大きなミッションだ。
別府はこれまで、ディスカバリーチャンネルを皮切りに、オリカ・グリーンエッジ、トレック・セガフレードなど強力なチームを渡り歩いた。長いキャリアのなかでは、グランツール(世界三大ステージレース)だけでなく、モニュメント(世界五大クラシックレース)もすべて完走。これは日本人ではいまだ別府のみ、世界の現役選手を見渡しても8人しかいない偉業だ。
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別府はなぜ36歳となった今も、この過酷なロードレースの本場で走り続けることができるのだろうか。その膨大なエネルギーの源泉について、今回はシーズン中の食事術からその秘密を探った。
大会中は生野菜をあまり食べない。
――成人男性の必要カロリーが1日2400kcal前後であるのに対し、「ツール・ド・フランス」に出場するロードレーサーは大会期間中1日で8000kcal以上を必要とするそうですね。いったいどんな食事の仕方でこれだけの量を?
別府 例えるならば、車の長距離ドライブです。とにかく長い距離を走る日の前夜は、しっかりタンクにガソリンを入れなければいけません。カーボ(炭水化物)を蓄えるわけです。お腹が減っている状態で眠り、レース当日に食べても遅いんです。それでは体が休まっておらず、カーボを蓄えることができません。
プロサイクリストは食べるのが仕事。ガソリンとみなす炭水化物系は、パスタにオリーブオイルとパルミジャーノチーズ、岩塩をかけるだけ。味にこだわりすぎず、とにかくお腹に入れます。
また、大会中は生野菜をあまり食べません。バランスよく栄養を摂取するために生野菜を……と食べてしまうと内臓が過剰に働いて、体の中から疲れてしまうんです。一生懸命運動して体の外側が疲れ、さらに体の内側も疲れてしまうと、もう終わりです。ボイルした人参やブロッコリー、ジャガイモなど、なるべく消化に良いものを食べるのが主流ですね。
一般の方も、ダイエットメニューとして生野菜をひたすら食べてしまうと、実は内臓に負担がかかってしまいます。体は正直なので、炭水化物をエネルギーにしながら毎日何百キロも走り、食べては使ってを続けていると、やはり内臓もどんどん疲れていく。ぼくたちは、そこも計算しています。内臓が強くなければ自転車ロードレースは走れませんが、内臓を疲れさせない食事もとても大切なのです。
食事の時は消化を促進する炭酸水をバランスよく飲んでいます。また、ガスなしの水を飲む際も、足がつるのを防ぐためミネラルがたくさん入った水を飲んでいます。