コートサイドで見せた父の顔。

　引退してからのコービーは、友好的で、いい人の一面を「ブラック・マンバ」の仮面で隠さなくなっていた。

　最後に見かけた12月末のステープルズセンター、レイカーズ対ダラス・マベリックスの試合のとき。4人の娘のなかでバスケットボールに夢中なジアナとコートサイド席に座り、試合を見ていた。ルカ・ドンチッチにスロベニア語でトラッシュトークし、ジアナがドンチッチと記念撮影するのを嬉しそうに眺めていた。

　引退後、しばらくバスケットボールから離れていたコービーだが、ジアナが、バスケットボールに夢中になったことをきっかけに、NBAリーグパスを契約し、頻繁に試合を見に行くようにもなっていた。

　ジアナと並んで試合を見るコービーは、かつての「ブラック・マンバ」の顔ではなく、娘を誇らしく見守る父の顔だった。楽しそうなコービーの笑顔が、今も目に焼き付いている。

　4年前、コービーが現役を引退したとき、私たちは「ブラック・マンバ」に別れを告げた。寂しさはあったものの、すばらしいキャリアを終えたコービーに対して祝福の気持ちも強かった。

　しかし今回の、微笑ましいほど親ばかで笑顔のコービーとの別れは、ただただつらく、悲しい。