スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
久保建英の現状は「かわいそう」。
後輩を慮りつつ充実の香川真司。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byDaisuke Nakashima/AFLO
posted2020/01/29 11:30
日本代表の10番を背負い続けた香川真司と、これからの日本を背負って立つ久保建英。スペインでの初対決は前者に軍配が上がった。
ゲームを落ち着かせつつチャンスを。
今季のサラゴサはスピードと機動力に優れた得点源のルイス・スアレスを生かした縦に速い攻撃が一番の武器となっている。だがこの日はそのスアレスに加え、中盤の底から中、長距離のパスを前線に配給する司令塔のエグアラスも不在だった。
さらにはマジョルカが自陣深くのスペースを埋めるブロック守備を敷いたため、必然的にサラゴサの攻撃はショートパスを多用した遅攻が多くなった。
そして多くの場合、その中心にはトップ下の香川がいた。後半3分の先制シーンはその好例だ。
左サイドバックのクレメンテがドリブルで1人抜いてペナルティーエリア手前までカットインし、ゴール前中央の香川へパス。ゴールに背を向けた状態でボールを受けた香川は素早く右に反転し、エリア内右のアレックス・ブランコにつないで先制点をお膳立てした。
バイタルエリアの狭いスペースでボールを受け、小回りのきいたターンからラストパス。香川の良さが詰まった、ひと幕である。
結局ゴールに直接絡んだプレーはこのシーンだけだったが、その後も香川はベテランらしい気の利いたプレーでサラゴサの中盤をコントロールし続けた。
ボランチの位置まで下がってボールを受け、食らいつくマーカーの勢いを逆手に取ってファウルを誘う。そうやってゲームを落ち着かせる香川の存在は、マジョルカにとって非常に厄介だったことだろう。
願い通り、次戦はマドリーと対決。
充実の90分を終えた香川の目は、次の一戦に向けた期待感に満ち溢れていた。
「次のラウンドはどこが相手か分からないですけど、すごい楽しみですね。バルサなのかレアルなのか、可能性はあるわけで。是非やりたいなという気持ちで待ってます」
その願いは実現し、8強入りをかけて戦う相手はレアル・マドリーに決まった。
舞台は再びラ・ロマレダ。悪天候も重なったマジョルカ戦は寂しい客入りとなったが、次は満員のスタンドが香川とサラゴサの大一番を盛り上げてくれるはずだ。