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連続写真で見る羽生結弦の4回転半。
最高の挑戦者は最高の被写体だ。
text by
長久保豊Yutaka Nagakubo
photograph byYutaka Nagakubo/The Sports Nippon
posted2019/12/16 11:40
羽生結弦が試みたクアッドアクセルの連続写真。このように見るとアスリートとしての際立った身体性を感じる。
必要なら連続写真に! の意図。
フィルムカメラの時代、フィギュアスケートの新聞写真といえば「男子はジャンプ、女子はスパイラル(当時)」と相場が決まっていた。
「嫌がる選手が多いからジャンプの写真を大きく使うのはやめてくれ。現場で肩身が狭い」
「いや記録として必要だ」
「どうしても必要なら連続写真にしてくれ。ゆがんだ顔が大きくなるよりいい」
こうしたカメラマンVS編集者の戦いも今は昔。新聞が美しい写真を求め出し、カメラマンの意見が通るようになり、積極的に発言するようになったのも羽生の存在抜きには語れない。
「あっ、誕生日ケーキがある!」
12月8日、一夜明け会見の場。国籍、職種、音程(これが一番の問題)もさまざまな混声合唱団が小さな白いテーブルに置かれたケーキの前に集まった。
「いいですか皆さん、大きな声で歌って下さいよ」
その間にも会見場の外にいる物見の衆から続々と報告が入る。
「いま部屋を出ました」「いまこちらへ向かっています」
そして「入ります」の声に合わせて「せ~の!ハッピー・バースデー・トゥ~」まで歌ったところで急に声が小さくなる。
だってそれに続くのは「ユ~」なのか「ユヅ~」なのか? 最後は「ハニュウユヅルさん」と早口で歌うのか? 決めていなかったのだ。
1日遅れの誕生日サプライズ。われわれの痛恨のミスにも、サプライズの気配が廊下までダダ漏れしていたのにも、気がつかないふりをして「あっ、誕生日ケーキがある!」と笑顔で喜んでくれた最高の被写体。
フリー演技後のインタビューで「今に見とけ、って思っています」と羽生は答えた。
「これからもずっと見ている」。ボクたちはそう答えることにしよう。