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連続写真で見る羽生結弦の4回転半。
最高の挑戦者は最高の被写体だ。
posted2019/12/16 11:40
text by
長久保豊Yutaka Nagakubo
photograph by
Yutaka Nagakubo/The Sports Nippon
羽生結弦がポーンと跳んだ。
後ろに振り上げた右足を思い切り振り下ろして高く跳んだ。
トリプルアクセル? いや、1回転しただけで体を弛緩させて着氷した。
また同じようにポーンと跳んだ。
ただのパンク? いや、彼に限ってトリプルアクセルを連続で失敗することなどありえない。
同じシーンを見たことがある。2015年11月、長野のNHK杯でのことだ。あのときはフリーの日の午前練習でポーンと跳んだ。その直後におそろしく飛距離の長いアクセルを跳び、3回と半分回って降りた。
「4回転をやろうとしてたんじゃない?」
ひとり興奮するボクに賛同してくれる人はあまりいなかった。
鋭い視線、漂う気配から……。
それから4年。12月6日のイタリア・トリノ。GPファイナルのフリーへ向けての練習日のことだった。
「来る!」
パラベラのスタンドに陣取ったカメラマンたちが息を飲んで沈黙する。連射にそなえシャッターボタンに添えられた右手人差し指がぷるぷると震える。それほどの助走距離を取ったわけではない。だが鋭い視線、漂う気配がそれを教えてくれる。
「行った!」
同時に雷鳴のようなシャッター音が巻き起こる。ニコンD5、キヤノンEOS1DX―MarkII、ソニーα9II(電子シャッターのため無音)などの各自の愛機が連射速度を競い合うようにその瞬間を記録する。