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田中史朗「僕は何も言う必要はない」
ジョセフ体制が成熟した何よりの証。
posted2019/10/21 15:30
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph by
Naoya Sanuki
涙が止まらなかった。アジアラグビー史上初のW杯決勝トーナメント。10月20日の準々決勝で、南アフリカに3-26で完敗した。しかし悔し涙ではなかった。
万雷の拍手が降り注ぐ東京スタジアムで、スクラムハーフの田中史朗は夢にまで見た光景に囲まれていた。ラグビーを日本の文化にしたい――そんな大志を抱いて行動してきた34歳に、待望のフィナーレは待っていた。
「日本にラグビー文化が根付く第一歩が、僕たちのベスト8です。若い選手がこれからの日本を引っ張っていってくれれば、もっともっと文化も根付いていきますし、もっと上を目指せると思います」
これが最後かもしれない。そんな想いもよぎった。
2008年に日本代表デビューし、W杯は2011年大会から3大会目。166cm72kgの「小さな巨人」は、本大会出場が決定した2023年のW杯フランス大会では38歳になっている。
「長く代表やってきて、次があるかも分からないので、もしかしてこれが最後かもというのもありました」
ここからまた進化していける。
万感の想いが込み上げた。しかし拍手を送る4万8831人の観客に、日本ラグビーの未来を見た気がした。
「負けたのは悲しいけれど、日本ラグビーの幕開けじゃないけど、『ここからまた進化していける』とファンを見ていたら思ったので、涙が流れました」
「ONE TEAM」の旅が終わった10月20日は、娘さんの誕生日。高校の先輩である「ミスターラグビー」平尾誠二さんの命日でもあった。
「娘の誕生日で負けました。平尾さんの命日とも重なって。これから10月20日というのは、いろんな思いが重なった日になりそうです。でも人生としてはすごく良いことかなと思います」