プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「代打の代打」に「偽装スクイズ」。
“1死三塁”を巡る工藤監督の名采配。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/10/20 13:00
日本シリーズ第1戦の試合後、7回1失点に抑えたエース千賀(左)と握手を交わす工藤監督。
基本パターンを作り上げたソフトバンク。
何より走者三塁を作ったのが3回とこの回の2度だけでは、ただでさえ攻略の難しい相手エースを打ち崩すチャンスは皆無だったといってもいいのかもしれない。
全く動くチャンスのなかった巨人ベンチに対して、皮肉にも「1死三塁」という教科書通りの攻撃の基本パターンを作り上げて着々と加点していったのはソフトバンク・工藤公康監督だった。
1点リードの6回に先頭の牧原大成内野手がライト線への二塁打を放つと2番の今宮健太内野手がきちっと送って「1死三塁」を作って貴重な追加点を奪った。
そして7回にも先頭の松田宣浩内野手が左中間を破って無死二塁となれば、迷うことなくベテランの内川聖一内野手に送らせて、再び「1死三塁」を作る。ここで左の代打・長谷川勇也外野手に巨人がマウンドを左腕の田口麗斗投手にスイッチすると、工藤監督はすかさず代打の代打に“左殺し”の川島慶三内野手を告げた。
その川島が四球で一、三塁となれば、次の牧原の初球に“偽装スクイズ”。バントの構えからわざと牧原が空振りし一塁走者の二盗を援護。スクイズと思った巨人バッテリーが三塁走者を警戒する間に、まんまと1死二、三塁とチャンスを広げて牧原、今宮、柳田悠岐外野手の3連打などで決定的な4点を奪って試合を決めた。
「仕切り直してフラットな形で戦う」
「これからも後悔しないようにしっかりと決断していきたい。1戦、1戦、力を合わせて頑張ります」
こう語る工藤監督はヤフオクドームでの日本シリーズはこれで9連勝。監督として過去3度の日本一に輝いた指揮官が、ベンチワークで引き出した追加点だったのである。
一方の三塁側通路。
「誰だって日本シリーズの第1戦は固くなる。今日のゲームは帰ってこないのだから、これを糧として、我々はつなげるということですね。結果的には大差になりましたけど、明日から仕切り直してフラットな形で戦う」
こう語って次戦に目を向けたのは原監督だった。力勝負ではなく、終盤のもつれた展開でいかに接戦を制していけるか。いかに「1死三塁」を作り出せるか。
巨人の勝機はそこから開けるはずである。