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鎌田大地の才能に地元ファンも注目。
フランクフルトでの変身ぶりとは。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byUniphoto Press
posted2019/10/14 11:40
日本代表でも最前線のキーマンになるのではと期待がかけられている。鎌田大地にとって2019-20シーズンは勝負の1年となる。
「良い選手を獲ったね!」って……。
知り合いのアイントラハトサポーターに鎌田の印象を聞いてみました。
「彼のプレーを観た瞬間ものすごいタレント性を感じたよ! ベルギーから来たんだろ? アイントラハトも良い選手を獲ったよね!」
いや、鎌田は2017年6月にサガン鳥栖からアイントラハトに移り、続いてベルギーへ修業に行っていたんですけどね。
まあ、小さいことは気にしません。確かに、アイントラハトのホームであるコンメルツバンク・アレナで鎌田がボールを持つと「ウォー」といった歓声が起こるようになり、相手からファウルされてFKを得たりすると万雷の拍手が送られるようになってきました。
ただし、アイントラハトサポーターは鎌田のプレーに少しだけ不満もあるようです。
「なにか遠慮がちなんだよね。『お先にどうぞ』『あとはよろしく』みたいな感じ」
この表現は言い得て妙な気がします。確かにシーズン序盤の鎌田は遠慮がちなプレーが目立っていました。アイントラハトには良い意味で自己主張の強い選手がいて、そのなかで自己の個性をどう落とし込むか、鎌田自身も熟慮していたのかもしれません。
主審に主張し、FKも「俺が蹴る!」。
でも、心配は無用。最近の鎌田の振る舞いには明らかに変化の兆しが見られるからです。以前は相手に倒されてもすくっと立ち上がって何事もなかったようにプレーを再開していたのですが、今は結構主審に文句を言っています。「おい! 今のファウルだろ!」と。読唇術で映像越しに観ると日本語で言っているので、通じているかは分かりませんけども。
ブンデスリーガ第7節のブレーメン戦では興味深いことがありました。アイントラハトのプレスキッカーは左利きのフィリップ・コスティッチと右利きの鎌田が担っています。ちなみにコスティッチは左サイドMFを務めるゴリゴリのドリブラーでありながら、FKやCKでも「俺が蹴る!」とばかりに率先してスポットに立つ、良い意味で強い責任感を醸す選手です。
後半途中に得たアイントラハトの右CK。この場合、チームはインスイングになる右利きの鎌田がキッカーを担うのですが、そこにコスティッチが出張ってきて「お前はショートコーナーっぽく、脇で控えていろ」みたいな仕草を見せました。
しかし、鎌田はそれを完全無視。平然とCKを蹴ったら相手クリアを受けたMFセバスティアン・ローデが強烈な右足シュートを突き刺し満願成就。鎌田が蹴ったセットプレーからの今季初得点です。鎌田は一目散にローデの元へ駆け寄って飛びつき、その喜びを爆発させていました。
今の鎌田は物怖じせず、しっかりと自己主張しています。普段から飄々としていて唯我独尊の趣があり、その地の姿が良い形でピッチ上に表れているのかもしれません。