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<現役騎手が語る 秋競馬 私のベストレース>
池添謙一「『豊さんには聞けなかった』。三冠挑戦騎手だけの重圧」
posted2019/10/16 15:00
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph by
Ichisei Hiramatsu
2011菊花賞 オルフェーヴル
2011年の夏。池添謙一はずっとひとつのことを考えていた。オルフェーヴルの三冠のことである。それにはまず、自分がけがや騎乗停止などなくしっかりと乗ること。そして馬には無事に秋を、最後に残る菊花賞を迎えてほしい。そう願っていた。
オルフェーヴルはノーザンファームしがらき(滋賀県)で夏を過ごし、池添は北海道で乗っていたから、ひさしぶりにまたがったのは神戸新聞杯の1週間前の追い切りだった。そのときの感触から無事に夏を越してくれたことを感じ取り、実際に神戸新聞杯も完勝した。池添は言う。
「乗ってみて、馬は無事に菊花賞本番を迎えられると思いました。あとは自分がしっかり乗れば、という前哨戦でしたね」
勝ち気そうなイメージからは意外な感じもするが、池添は験をかつぐ。GIの前日にはいつもカツ丼を食べている。ところが当時、京都競馬場の調整ルームの食堂にはカツ丼がなかったという。
「それで、金曜日に調整ルームに入る前に食べたんですけど、土曜日の日替わりメニューが結局カツだったんです(笑)。2日連続でカツ丼はシンドイなと思ったから、カツカレーにしましたけどね。でも、そのときに勝てるなと思いましたよ」
2日続けてカツを食べた池添は、その夜は胃もたれもせず、しっかり眠れたという。しかし、三冠というのは騎手人生で一度あるかないかの大きなチャンスである。レース当日になってみると、いままでに経験のない緊張感に襲われた。休憩室にいても落ち着きがなく、そわそわしてしまう。