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女子レスリングは弱くなったのか?
世界選手権で金メダル「1」の意味。
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byAFLO
posted2019/09/26 07:00
敗戦のショックにも銅メダルを獲得した川井友香子。世界との立ち位置が見えた今大会となった。
最軽量級でタックルを封じられ。
最大の誤算は日本のお家芸といえる最軽量級の50kg級で東京オリンピックの出場枠すら獲れなかったことだろう。
国内で世界チャンピオンの須崎優衣(早稲田大)を撃破。初めて世界選手権に臨んだ入江ゆき(自衛隊体育学校)は3回戦で大技・がぶり返しをくらい大量4失点。さらにバック投げ(プロレスでいうバックドロップ)も食らい、スン・ヤナン(中国)に大敗を喫してしまう。前述の笹山強化委員長はタックルを封じられたことが敗因と分析した。
「入江はタックルの選手だけど、相手は低く構えて入らせてくれなかったので、『とらなければ』と焦ってしまった。そうした矢先に隙間のない体勢でガブられ投げられてしまった。そこでさらに焦ってしまい、『行かなければ』と思ったところで今度はバック投げを食らってしまった」
タックルに入ってくれば、カウンターを狙う。入江は4月にアジア選手権決勝では快勝している中国選手の術中にまんまとハマってしまったのか。
実績十分の土性、向田も敗戦。
リオ五輪金メダリストで世界選手権も制覇した経験がある土性沙羅(東新住建)も3回戦で急成長中のタミラ・メンサストック(アメリカ)の前に力尽きた。
この階級では身長159cmと小柄であるがゆえに自分より背の高い相手との対戦には慣れているはずだったが、今大会ではメンサストックの圧倒的なフィジカルの前に敗れ去ってしまった。
土性は「弱いから負けた」と潔く敗北を認める。笹山強化委員長は「行こうと思ってもいけなかった」と肩を落とす。
「得意の腕とりタックルにいっても、海外選手も研究していてとれない。そういう攻防を繰り返すうちに、土性は『これもかからない』『あれもかからない』と動きが小さくなっていった」
昨年の世界選手権53kg級で優勝した向田真優(至学館大)が決勝でパク・ヨンミ(北朝鮮)に敗北したことも痛かった。向田は今年4月のアジア選手権決勝でも同じ選手に逆転負けを喫している。今回は最初から最後まで押されっぱなしだったうえでの敗戦だった。
西口強化本部長は「負けるとは思っていなかった」と唇を噛んだ。
「実力レベルは向田の方が上だと思ったけど、手だけでタックルに入っていたし、最初から足も動いていなかった。どう見ても向田のレスリングではない」