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太田忍と文田健一郎の友情と死闘。
東京五輪レスリング代表を掴むまで。
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by(L)Miki Sano/(R)AFLO
posted2019/09/20 20:00
太田忍(右)と文田健一郎の切磋琢磨は、東京五輪に出場するよりも厳しく、そして気高い関係だ。
太田「もう60kg級に用はない」
エメリンの好戦的な闘い方は太田のそれに重なり合う。その点は文田にとっても好都合だった。
「忍先輩が僕に与えた影響は大きい。あの人のレスリングはガツガツ来る時は来るし、技を狙ってくるときもある。だから別の選手とやっても、『ここは忍先輩っぽい』と重ね合わせることがよくあるけど、今回はとくにそう感じました。
そもそも僕はあの人を一番意識してやってきたので、本当にそう感じる」
試合後、文田がアップ場の日本ブースに姿を現すと、太田は何も言わず文田を抱きしめた。それで十分だった。
「自分もなんか感謝を伝えようと思ったんですけど、言葉が出なかった」
太田のことを話しながら、文田はいきなり目頭を熱くした。
「なんか忍先輩はすごい温かくて。やっぱり特別なんだなって。忍先輩と会えてよかったなって思います」
この日、太田は67kg級へ転身し、東京を目指すことを発表した。
「もう60kg級に用はない。67kg級には僕も含めて世界王者が6人もいる。そんな階級はほかにはないのでやる価値はある」
それぞれの道を歩き始めた太田と文田。
最強のライバルストーリーは第2章に突入した。