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太田忍と文田健一郎の友情と死闘。
東京五輪レスリング代表を掴むまで。
posted2019/09/20 20:00
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
(L)Miki Sano/(R)AFLO
世界一より日本一になる方が難しい。
レスリング・グレコローマンスタイルの太田忍(ALSOK)と文田健一郎(ミキハウス)は国内で激しいデッドヒートを繰り広げていた。
文田が2017年世界選手権59kg級金メダリストならば、太田はリオデジャネイロオリンピック同級銀メダリスト。
ふたりとも世界の舞台では第一線で活躍できるレスラーだったのだから無理もない。
しかも、太田と文田は日本体育大学レスリング部で2つ違いの先輩後輩で、日々の練習でも切磋琢磨する仲だった。大学卒業後はともに練習の拠点をそのまま母校に置いたので、顔を合わせない日はほとんどなかった。
以前は同じ国際大会に出場し、現地で一緒に食事をしながら決勝では激しくぶつかり合うということもあったが、いつしかふたりは一緒に練習をしなくなる。筆者が日体大レスリング部に顔を出しても、お互い背を向けるように一定の距離を置き、スパーリングをすることもなかった。グレコローマンスタイル60kg級で東京オリンピックに出場できる者はひとり。
そうなることは必然だった。
世界選手権3位以内で東京五輪代表に。
今年の夏になってからふたりのライバル関係に変化が訪れた。
昨年12月の全日本選手権と今年6月の全日本選抜選手権決勝で文田は太田に連勝し、今年の世界選手権60kg級の日本代表の座を獲得した。カザフスタンで開催の世界選手権で3位以内に入賞すれば、そのまま東京五輪代表の座を射止めることができる。
一方の太田は全日本選抜後、非五輪階級の63kg級への転向を表明。7月に行なわれたプレーオフを難なく勝ち抜き、同級の日本代表として世界選手権に出場することになった。
大会初日(9月14日)、太田は準決勝までオール・テクニカルフォール勝ち(8点差がついた時点で試合終了が設立)と絶好調。果たして翌日の決勝でも昨年の世界王者ステパン・マリャニャン(ロシア)を相手にリードを許す場面もあったが、得意のがぶり返しで逆襲し10-4と大差をつけて優勝を決めた。