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憧れの田中将大との初対決前日に。
菊池雄星が先輩から学んだこと。
posted2019/09/07 20:00
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph by
Kyodo News
真剣勝負でも、ずっと待ちわびていた、幸せな時間だった。
8月27日。マリナーズ菊池雄星にとって、日米を通じて初めてヤンキース田中将大との投げ合いが実現した。
結果は、菊池の4回5失点に対し、田中は7回無失点。
日本人初の6年連続2桁勝利となる10勝目を挙げた先輩の底力と貫禄を、菊池は一塁側ベンチからしっかりと目に焼き付け、心に刻んだ。
「試合中は僕自身のことで精一杯でしたけど、とにかくコントロールとか、全体的なバランスとか、自分自身がこれから勝つために必要なものをすごく勉強させてもらいました」
チーム、個人の勝ち負けだけでなく、激戦区ア・リーグ東地区を独走する常勝軍団の先頭に立つエースが醸し出す空気、マウンドでの立ち居振る舞いのすべてが、菊池には刺激的であり、まさに吸収すべき生きた教材だった。
スプリットの投げ方を繰り返して。
菊池にとっての田中は、敵であっても、敵ではない、心から尊敬する先輩だった。
登板前日の8月26日。本拠地Tモバイルパークでの試合前、グラウンドで練習を始めた田中の姿を見つけると、小走りで駆け寄り、帽子を取ってあいさつした。一斉にカメラを向ける報道陣に少し背中を向けながら、菊池は大胆にも技術的なアドバイスを求めていた。
「いろいろお聞きしたいことがあったので……。ついつい聞いてしまいました。滅多にお会いできないので」
もちろん、詳細は明かさなかった。ただ、身振り手振りを交えて話しながら、田中は人差し指と中指を開き、手首を立てたまま、右腕を振り下ろす動作を、数回繰り返した。
傍目にも、間違いなく、田中の宝刀スプリットの投げ方だった。
というのも、菊池は今季から本格的にチェンジアップの習得を目指しており、サークルチェンジ、スプリットチェンジなど、様々な握りで試行錯誤を繰り返してきた。